『新・基本英文700選』の英文を使って、伊藤和夫先生の「結ばれることがなかった恋」を想像してみました。史実に基づく伝記ではなく、収録された例文をもとに著者の人物像を偲んで構成した創作エピソードです。
プロローグ
年老いた和夫は、ふと夜の空を見上げた。
192. 空にはいくつも星が見えた
There were several stars seen in the sky.
いくつもの星が瞬くのを見るたび、決まって思い出す夜がある。
もう何十年も前、まだ若かった頃のことだ。
彼女との出会い
里帰りしたときに友人宅を訪問した。
そこで、彼女に出会った。妹も一緒にいた。
どっちが姉で妹かわからないなあと、感想を漏らしたら、
543. よく妹と同じぐらいの年齢に見えると言われるんです
People say I look about the same age as my sister.
と笑いながら答えてくれた。
彼女と話すうちに、どこか惹きつけられるものがあるのに気づいた。
591. 彼女は決して美人ではないが、彼女にはどこか魅力がある
She is not at all a beauty, but she has a certain charm.
そう思ったのだ。
話の途中で、僕が冗談交じりにちょっと筋の通らないことを言った。
彼女はそれを黙って聞き流すことをしなかった。
146. 彼女は正しいものと正しくないものとの、いかなる相違も見逃さなかった
She did not overlook whatever difference there was between what was right and what was wrong.
彼女が、正しいものと正しくないものの違いを、決して見逃さなかった瞬間、和夫の心が動いた。
深まる想い
和夫たちは彼女に提案した。
691. こんどの日曜にピクニックに行こうと私たちは彼女に言った
We suggested to her that we (should) go on a picnic the following Sunday.
彼女とのピクニックは想像以上に楽しかった。
310. 私はまだ夢をみているような楽しい気持ちだった
I felt as happy as if I were still dreaming.
彼女と話せば話すほど、その内側から滲み出る美しさに惹かれていった。
誰かがこう言っていたのを思い出した。
444. 美しいということは、無視することがほとんど不可能な推薦状のようなものである
Beauty is a letter of recommendation which it is almost impossible to ignore.
これは、本当のことだと思う。
初詣と水戸の梅まつり
年が明けて、二人で初詣に出かけた。彼女は振り袖を着ていた。
395. その極端に幅の広い袖は、地面に届くほど長かった
The extremely wide sleeves were so long as to reach the ground.
まだ寒さも残る、2月下旬には
437. 私たちは梅の花で有名な水戸公園を見に行った
We visited Mito Park, which is famous for its plum blossoms.
こともある。彼女と出会ってから、半年が過ぎていた。
誓いと選択
和夫は常にこう想っていた。
322. 何が起ろうと、何が起ろうと、私はあなたを愛する、私がこの世を去る日まで
Come what may, come what may, I will love you, until my dying day.
でも、その言葉を声に出して彼女に伝えたことは、一度もなかった。
また、胸の内だけで繰り返した誓いもあった。
531. 私が生きているかぎりあなたに不自由はさせない
You shall want for nothing as long as I live.
そして
512. 彼女がいつ来ても、私は喜んで迎えるつもりです
Whenever she may come, I am ready to welcome her.
との気持ちもあった。そんな強い想いはあったけど、彼女には届かなかった。
だからだろう。東京にいた私にこんな手紙が届いた。
149. その手紙には、何時に彼女が上京するのか書いてない
The letter does not say what time she will come up to Tokyo.
その頃、大学時代からの友人が、結婚したという知らせが届いた。
528. 彼は大学を出るとすぐに結婚した
He married directly he left the university.
のだ。友は言葉を口に出し、行動に移し、所帯を持った。
でも、和夫は、恋は秘めるべきものだとの考えがあった。
225. 彼はそうするに限ると考えたが、それはまことに賢明であった
He thought, and very wisely, that it was best to do so.
そう思ったのだ。でも、それは口にできなかった、言い訳だったのかもしれない。
今も最後に会ったときの、うれしそうな彼女の姿を思い出すことがある。
356. 彼女はとてもうれしそうに見えたので、何かすばらしいことがあったに違いないと思った
She looked so happy that I thought something wonderful must have happened to her.
和夫は、星空を見ると、時に彼女を思い出すことがある。
P.S. 日本語から英語を思い出しましょう
物語に登場した16文です。日本語を見て、英文を思い出してみてください。
基本英文700選内の番号も付記しました。
プロローグ(1文)
空にはいくつも星が見えた(192)
彼女との出会い(3文)
私は妹と同じぐらいの年齢に見えると言われます(543)
彼女は決して美人ではないが、彼女にはどこか魅力がある(591)
彼女は正しいものと正しくないものとの、いかなる相違も見逃さなかった(146)
深まる想い(3文)
こんどの日曜にピクニックに行こうと私たちは彼女に言った(691)
私はまだ夢をみているような楽しい気持ちだった(310)
美しいということは、無視することがほとんど不可能な推薦状のようなものである(444)
初詣と水戸の梅まつり(2文)
その極端に幅の広い袖は、地面に届くほど長かった(395)
私たちは梅の花で有名な水戸公園を見に行った(437)
誓いと選択(7文)
何が起ろうと、何が起ろうと、私はあなたを愛する、私がこの世を去る日まで(322)
私が生きているかぎりあなたに不自由はさせない(531)
彼女がいつ来ても、私は喜んで迎えるつもりです(512)
その手紙には、何時に彼女が上京するのか書いてない(149)
彼は大学を出るとすぐに結婚した(528)
彼はそうするに限ると考えたが、それはまことに賢明であった(225)
彼女はとてもうれしそうに見えたので、何かすばらしいことがあったに違いないと思った(356)
思い出せなかった英文は、エピソードに戻り、俳優になったつもりで、感情を込めたり、時にジェスチャーを交えて、英文を声に出して読むと、記憶として定着しやすくなると思います。試してみてください。
『新・基本英文700選』(鈴木長十・伊藤和夫 共編)収録の例文をもとに、著者の人物像を偲んで構成した創作エピソードです。史実に基づく伝記ではありません。

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