竹 取 物 語

音読でボケ防止

竹取物語(國民文庫)の原文の前に、原文を理解するためのヒントを A I に作ってもらい、挿入してもらいました。物語の流れ(いつ・誰が・何をして・何を見つけ・どう思ったか)が意識できるようなヒントを作ってもらいました。


『竹取物語』全11章

第1章:かぐや姫の誕生と美しさの噂

第2章:五人の貴公子と出された「五つの難題」

第3章:第一の難題「仏の御石の鉢」〜石作皇子の企み〜

第4章:第二の難題「蓬莱の玉の枝」〜庫持皇子の偽装工作〜

第5章:第三の難題「火鼠の裘」〜右大臣阿倍御主人の落胆

第6章:第四の難題「龍の首の玉」〜大伴大納言の悲惨な冒険

第7章:第五の難題「燕の子安貝」〜石上中納言の悲劇〜

第8章:帝の登場〜かぐや姫の拒絶とプラトニックな交流〜

第9章:月への帰還の告白〜翁の悲しみと十五夜の近づき〜

第10章:天人の飛来と涙の別れ〜天の羽衣と残された手紙〜

第11章:不死の薬と富士山の伝説〜エピローグ〜


第1章:かぐや姫の誕生と美しさの噂


(いつの時代?) 今は昔

 (主人公は?) 竹取の翁といふもの ありけり。

(普段は何をしていた?) 野山にまじりて 竹をとりつゝ 萬(よろづ)の事に つかひけり。

(その人の名前は?) 名をば讃岐造麿(さぬきの みやつこ まろ)となん いひける。

(竹林で見つけたのは?) その竹の中に 本(もと)光る竹 ひとすぢ ありけり。

(翁が不思議に思ってどうした?) 怪しがりて 寄りて見るに 筒の中 ひかりたり。

(中には何がいた?) それを見れば 三寸ばかりなる人 いと美しうて 居たり。

(それを見て翁は何と言った?) 翁いふやう、「われ朝ごと夕ごとに見る、竹の中におはするにて知りぬ、子になり給ふべき人なんめり。」とて

(そう言ってどうした?) 手にうち入れて 家に もちてきぬ。

(家に連れてきてどうした?) 妻(め)の嫗(おうな)にあづけて 養はす。

(容姿の評判は?)美しきこと 限りなし。

(小さすぎるのでどう扱う?) いと幼ければ 籠(こ)に入れて 養ふ。

物語の展開(不思議な現象→成長→影響力→命名→お祝い)を意識してください。


(その後、竹を取りに行くとどうなった?) 竹取の翁 この子を見つけて後に 竹をとるに 節(ふし)をへだてゝ よ毎(ごと)に 金(こがね)ある竹を 見つくること 重りぬ。

(その結果、翁の暮らしは?) かくて翁 やう〳〵(ようよう)豐(ゆたか)になりゆく。

(子供の成長ぶりは?) この兒(こ) 養ふほどに すく〳〵と 大きに なりまさる。

(三ヶ月経ってどうなった?儀式は?) 三月(みつき)ばかりになる程に よきほどなる人に なりぬれば 髪上(かみあげ)など 左右(さう)して 髪上せさせ 裳(も)着(ぎ)す。

(どのように大切に育てた?) 帳(ちやう)の内よりも 出(いだ)さず いつきかしづき 養ふほどに、

(その容姿と、家の中への影響は?) この兒(こ)のかたち 清け(きよげ)うらなること 世になく 家の内(うち)は 暗き處(ところ)なく 光 滿ちたり。

(翁が辛い時、子を見るとどうなる?) 翁 心地(こころち)あしく 苦しき時も この子を見れば 苦しき事も 止みぬ。 腹だたしきことも 慰(なぐさ)みけり。

(金が入る竹を長く取り続け、翁はどうなった?) 翁 竹をとること 久しくなりぬ。 勢(いきほひ)猛(まう)の者に なりにけり。

(大人になったので、誰を呼んで、どんな名前をつけさせた?) この子 いと大きに なりぬれば 名をば 三室戸(みむろど)齋部(いんべの)秋田(あきた)を呼びて つけさす。 秋田 なよ竹の かぐや姫と つけつ。

(名が付いてお祝いは?) このほど 三日 うちあげ 遊ぶ。 萬(よろづ)の遊をぞ しける。

(誰を呼んでどう遊んだ?) 男女(をとこ をうな)きらはず 呼び集(つど)へて いとかしこく あそぶ。


つぎのパートも流れ(男たちの熱狂→近所の人でも姿を見るのは無理→夜中の常軌を逸した行動→言葉の起源)を意識してヒントを作成しました。


(世の中の男性たちの反応は?) 世界の男(をのこ) 貴(あて)なるも 賤(いや)しきも 「いかで このかぐや姫を 得てしがな 見てしがな。」と 音に聞きめでて 惑(まど)ふ。

(近所の人でも見ることはできた?) その傍(あた)りの垣にも 家の門(と)にも 居(を)る人だに 容易(たはやす)く 見るまじきものを

(夜、男たちは眠らずに何をして覗こうとした?) 夜は 安き 寝(い)も寝(ね)ず 闇(やみ)の夜に出でても 穴を抉(くじ)り こゝかしこより 覗(のぞ)き 垣間見(かいまみ) 惑(まど)ひあへり。

(その行動から、何という言葉が始まった?) さる時よりなん よばひ とはいひける。


第2章:五人の貴公子と出された「五つの難題」

求婚者たちの狂騒と、そこから残った「五人の貴公子」の登場シーンが続きます。

無駄な努力をして去っていく人たちと、執念深く残った五人の対比がポイントです。


(人が行かないような場所まで迷い歩いたが、効果はあったのか?) 人の物ともせぬ處(ところ)に 惑(まど)ひ 歩(あり)けども 何の効(しるし)あるべくも 見えず。

(家の人に声をかけてみたが、相手にされた?) 家の人どもに 物をだに 言はんとて いひかくれども 事(こと)ゝもせず。

(それでも屋敷のそばを離れず、昼夜を過ごす人は多かった?) 傍(あた)りを 離れぬ公達(きんだち) 夜を明し 日を暮す人 多かり。

(そのうち、熱意が不十分な人たちは何と言って来なくなった?) 愚(おろか)なる人は 「益(やく)やうなき歩行(ありき)は よしなかりけり。」とて 來(こ)ず なりにけり。

(その中で、諦めなかった好色な五人はどうした?) その中に 猶(なほ) いひけるは 色好(いろごのみ)といはるゝかぎり五人 思ひ止む時なく 夜晝(よるひる)來(き)けり。

(その五人の名前は?) その名 一人は石作(いしづくりの)皇子(みこ)、一人は車持(くらもちの)皇子 一人は右大臣阿倍御主人(あべのみうし) 一人は大納言大伴御行(おほとものみゆき) 一人は中納言石上(いそのかみの)麿呂(まろ) たゞこの人々なりけり。


五人の名前は、リズムよく一気に覚えるのがコツです。

この後、この五人がいかに執念深くかぐや姫にアプローチし、翁が折れて、かぐや姫に結婚を勧めるシーンへと展開していきます。

ご提示いただいた、5人の貴公子たちの執念と、翁の煮え切らない態度の場面です。

彼らの諦めの悪さと、翁の困惑ぶりを対比させるようにヒントを付けました。


(この5人の性格は?) 世の中に 多かる人をだに 少しも かたちよしと 聞きては 見まほしうする人々なりければ、

(かぐや姫への執着は凄まじかったが、屋敷に通っても成果はあった?) かぐや姫を 見まほしうして 物も食はず 思ひつゝ かの家に行きて たたずみ ありきけれども かひあるべくもあらず。

(手紙や歌を送っても反応は?)文を書きてやれども 返事(かえりごと)もせず わび歌など書きて 遣(や)れども かへしもせず。

(無駄だと思いつつ、どんな過酷な季節・天気でも通い続けた?) 「かひなし。」と思へども 十一月(しもつき)十二月(しわす)の ふりこほり 六月(みなづき)の照り はたゝくにも 障(さは)らず 來(き)たり。

(ある時は翁を呼び出して、どのような必死な態度で頼んだ?) この人々 或(ある)時は 竹取を呼びいでて「娘を我にたべ。」と 伏(ふ)し 拜(おが)み、手を摩(す)り の給へど、

(翁は何と言って断った?) 「己(おの)がなさぬ子なれば 心にも 從はずなんある。」といひて 月日を過(すぐ)す。

(家で神頼みをして諦めようとしたが、どうだった?) かゝれば この人々 家に歸(かえ)りて物を思ひ 祈祷(いのり)をし 願をたて 思ひやめんとすれども 止むべくもあらず。

(結局、「いつかは結婚するだろう」とどう思った?) 「さりとも 遂に 男合せざらんやは。」と思ひて 頼みをかけたり。

(そうして、どのような態度を見せ続けた?) 強(あなが)ちに 志を見え 歩(あり)く。


「十一月十二月の降(ふ)りこほり(冬の厳しさ)」と「六月の照り(夏の暑さ)や雷鳴がとどろく」の対比表現などは、リズムも良くて覚えやすい箇所ですね。

この後、根負けした翁がかぐや姫を説得しようとする場面へと続きます。

翁がかぐや姫に結婚を勧め、かぐや姫が「難題(宝物を持ってくること)」を条件として提示する、物語の核心部分です。

翁の親心と、かぐや姫の理路整然とした返答の対比がポイントです。会話の流れ(説得→拒絶→妥協案の提示)を意識してヒントを作成しました。


【5人に根負けした翁が動き出す】

(翁はかぐや姫になんと言い出した?) これを見つけて 翁 かぐや姫にいふやう

(自分は仏の化身を育てたのだと認めつつ、どう切り出した?) 「我子の佛(ほとけ)變化(へんげ)の人と申しながら こゝら大(おほ)きさまで 養ひ奉(たてまつ)る志 疎(おろか)ならず。 翁の申さんこと 聞き給ひてんや。」といへば、

(それを聞いたかぐや姫は、自分の身の上をどう語り、どう答えた?)かぐや姫 「何事をか 宣(のたま)はん事を 承(うけたまわ)らざらん。 變化(へんげ)の者にて 侍(はべ)りけん身とも知らず 親とこそ 思ひ奉れ。」といへば、

(翁はその返事を聞いてどう感じた?)翁「嬉しくも 宣(のたま)ふものかな。」といふ。

(続けて、自分の年齢と寿命についてどう語った?) 「翁 年(とし)七十(ななそぢ)に餘(あま)りぬ。 今日とも 明日とも 知らず。

(この世の男女の習わしと、それによって家がどうなると説いた?) この世の人は 男は 女にあふことをす。 女は 男に合ふことをす。 その後なん、門(かど)も廣(ひろ)くなり侍(はべ)る。

(だから、あなたもどうすべきだと言った?) いかでか さる事なくては おはしまさん。」

(かぐや姫の最初の反応は?) かぐや姫のいはく「なんでふ さることかし侍(はべ)らん。」といへば、

(翁は食い下がる。化身でも今は女の体だ。自分が生きている間はいいが、その後はどうする?)「變化(へんげ)の人と いふとも 女の身もち 給(たま)へり。 翁の あらん限りは かうても いますかりなん かし。

(5人の中の誰かと結婚してはどうか?)この人々の 年月を經て かうのみいましつつ宣(のたま)ふことを 思ひ定めて 一人々々にあひ 奉り 給ひね。」といへば、

(かぐや姫が結婚を躊躇する「本当の理由」は何か?)かぐや姫 いはく「よくもあらぬ容(かたち)を 深き心も知らで 『あだ心(浮気心)つきなば 後(のち)悔(くや)しきこともあるべきを。』と 思ふばかりなり。

(たとえ相手が高貴な人でも、何を知らなければ結婚できない?) 世のかしこき人なりとも 深き志を 知らでは あひ難しとなん思ふ。」といふ。

(翁はその意見に賛成しつつ、彼らの志をどう評価している?) 翁いはく「思ひの如くも のたまふかな。 そもそも いかやうなる志あらん人にか あはんと思(おぼ)す。 かばかり 志 疎(おろか)ならぬ人々にこそあんめれ。」

(志の深さをどうやって測るのか?) かぐや姫のいはく「何(なに)ばかりの深きをか見んといはん。 いさゝかのことなり。 人の志 ひとし かんなり。 いかでか 中に 劣勝(おとり・まさり)は 知らん。

(そこで出した条件とは?) 「五人の中にゆかしき物(心ゆくまで満足させる物)見せ給(たま)へらんに「御(おほん)志 勝りたり。」とて 仕(つこ)うまつらん。』と、その(そこに)おはすらん(おいでの)人々に申(まを)し給へ。」といふ。

(翁はその提案を受け入れた?) 「よきことなり。」とうけつ。


ここで、有名な「難題」が出される前提が整いました。

翁は「こんなに熱心なんだから誰でもいいじゃないか」と言いますが、かぐや姫は「心変わりが怖いから、愛の証拠(ゆかしき物)を見せてほしい」と返します。論理的でありながら、無理難題を吹っかけるしたたかさも見え隠れする面白い場面です。

次は、いよいよ5人の貴公子たちに、それぞれ「何を持ってくるように」伝えたか、という具体的な難題の内容のシーンになります。進めてよろしいでしょうか?

いよいよ物語のハイライトの一つ、「五つの難題」が出されるシーンですね。

それぞれの貴公子に課された宝物の内容と、それを聞いた彼らの落胆ぶりをイメージしながら覚えられるよう、ヒント(トリガー)を作成しました。


【翁から5人にお題が伝えられる】

(いつ?) 日暮るゝほど 例の集りぬ。

(待ちながら、彼らはどうやってアピールしていた?) 人々 或は 笛を吹き 或は 歌をうたひ 或は唱歌をし 或はうそ(口笛)を吹き 扇をならしなどするに、

(翁が出てきてどう挨拶した?) 翁 出(い)でていはく 「辱(かたじけな)くも きたなげなる所に 年月を經(へ)て 物(もの)し給ふこと 極まりたるかしこまりを 申す。

(翁はかぐや姫との会話をどう伝えた?)『翁の命 今日明日とも 知らぬを かくのたまふ君達(きんだち)にも よく思ひ定めて仕(つか)うまつれ。』と申せば 『深き御心(おほんこころ)をしらでは』となん申す。

(その娘の言い分について翁はどう思った?) さ申すも理(ことわり)なり。

(では、どうやって相手を決めると言っている?) 『いづれ 劣勝(おとり・まさり)おはしまさねば ゆかしきもの 見せ給へらんに 御(おん)志のほどは 見ゆべし。 仕うまつらんことは それになむ 定むべき。』といふ。

(この条件なら誰も文句はないだろう?) これ善(よ)きことなり。人の恨(うらみ)も あるまじ。」といへば、

(5人も同意したので、翁は奥に入って娘に聞いた。1人目の石作皇子への課題は?) 五人の人々も「よきことなり。」といへば、 翁入りて いふ。 かぐや姫 石作(いしづくりの)皇子(みこ)には「天竺(てんじく)に佛(ほとけ)の御(み)石の鉢(はち)といふものあり。それをとりて給へ。」といふ。

(2人目の車持皇子への課題は?) 車持(くらもちの)皇子には、「東(ひんがし)の海に蓬莱(ほうらい)といふ山あンなり。それに白銀(しろがね)を根とし 黄金(こがね)を莖(くき)とし 白玉(しらたま)を實(み)として たてる木あり。 それ 一枝 折りて 給はらん。」といふ。

(3人目の阿倍右大臣への課題は?) 今一人には「唐土(もろこし)にある、火鼠(ひねずみ)の裘(かはごろも)を給へ。」

(4人目の大伴大納言への課題は?) 大伴大納言には「龍(たつ)の首に五色(ごしき)に光る玉あり。それをとりて給へ。」

(5人目の石上中納言への課題は?) 石上(いそのかみの)中納言には「燕(つばくらめ)のもたる子安貝一つとりて給へ。」といふ。

(それを聞いて翁はどう反応した?)翁「難(かた)きことゞもにこそあンなれ。この國(くに)にある物にもあらず。 かく難き事をばいかに申さん。」といふ。

(対するかぐや姫の反応は?)かぐや姫「何か難からん。」といへば、

(翁は諦めて外に出て、貴公子たちにどう伝えた?) 翁「とまれかくまれ 申さん。」とて、出でて「かくなん、聞(きこ)ゆるやうに 見せ給へ。」といへば、

(それを聞いた貴公子たちは、なんと文句を言って帰ってしまった?)皇子達 上達部(かんだちめ)聞きて「おいらかに『あたりよりだに な歩(あり)きそ。』とやは宣(のたま)はぬ。」といひて、うんじて 皆 歸(かえ)りぬ。


最後の「おいらかに、『あたりよりだになありきそ(近寄るな)』とやは宣はぬ」は、「(こんな無理難題を言うくらいなら)いっそ素直に『近寄るな』と言えばいいではないか」という、男たちの捨て台詞です。

この難題の順番と内容は、以下のように整理してイメージすると覚えやすいかもしれません。

  1. 石作 → 石の鉢(つながり)
  2. 車持 → 蓬莱の玉の枝(ってくるのが大変な大きな枝)
  3. 阿倍 → 火鼠の皮衣(あべ→あぶら→)※語呂合わせ
  4. 大伴 → 龍の首の玉(大伴→大きな
  5. 石上 → 燕の子安貝(いそのかみ→

第3章:第一の難題「仏の御石の鉢」〜石作皇子の企み〜

さて、これで求婚の難題が出揃いました。物語はここから、それぞれの求婚者が偽物を作ったり、冒険に出たりする「難題成就(失敗)編」に入っていきます。

一人目の求婚者、石作皇子(いしづくりのみこ)の「偽の鉢」のエピソードですね。

皇子の策士ぶりと、嘘がバレた後の厚かましさ、そして最後のダジャレ(言葉遊び)がポイントです。

物語の流れ(悪だくみ→偽造→発覚→言い訳→語源)に沿って、記憶のトリガーを作成しました。


(諦めきれない皇子は、どんな決意をした?) 「猶(なほ)この女 見では 世にあるまじき心(こころ)ち のしければ 天竺にあるものも 持てこぬものかは。」と 思ひ めぐらして、

(実は策士である彼は、インドまで行くことについてどう計算した?) 石作皇子(みこ)は 心のしたくみある人にて「天竺に 二つとなき鉢を 百千萬里の程(ほど)行きたりとも いかでか取るべき。」と思ひて、

(かぐや姫にはどう嘘をついて出発した?) かぐや姫の許(もと)には 「今日なん 天竺へ石の鉢とりにまかる。」と聞かせて、

(三年後、実際にはどこの何を持ってきた?)三年ばかり經(へ)て 大和國(やまとのくに)十市郡(とをちのこほり)にある山寺に賓頭盧(びんづる)の前なる鉢のひた黑に煤(すす)つきたるをとりて、

(それをどのように飾り付けて持参した?) 錦(にしき)の袋に入れて、作花(つくりばな)の枝につけて、かぐや姫の家にもて來(き)て 見せければ、

(怪しんだかぐや姫が中を見ると、何が入っていた?) かぐや姫 あやしがりて 見るに 鉢の中に文(ふみ)あり。 ひろげて見れば、

(皇子の歌「血の涙を流して持ってきました」)海山の みちにこゝろを つくしはて みいしの鉢の なみだながれき

(肝心の鉢は光っていた?) かぐや姫、「光やある。」と見るに、螢(ほたる)ばかりの ひかりだになし。

(呆れたかぐや姫が返した歌は?「小倉山(暗い)) おく露(つゆ)の ひかりをだにも やどさまし 小倉山にて なにもとめけむ

(皇子はその鉢をどうして、どう反応した?)とて かへし いだすを 鉢を門に棄(す)てゝ この歌のかへしをす。

(往生際の悪い皇子の返歌「白山(光)に出会ったから消えたのです。鉢を捨ててでも頼ります」) しら山に あへば光の 失(う)するかと はちを棄(す)てゝも たのまるゝかな

(それを読んだかぐや姫の対応は?) とよみて 入れたり。 かぐや姫 返しもせずなりぬ。

(相手にされなくなった皇子はどうした?) 耳にも 聞き入れざりければ いひ煩(わづら)ひて 歸(かえ)りぬ。

(この出来事から、厚かましいことを何と言うようになった?)かの鉢(はち)を棄(す)てゝ またいひけるよりぞ 面(おも)なき事をば はぢをすつとは いひける。


最後の「はぢをすつ(恥を捨てる)」は、「鉢(はち)」を捨てたこととかけた有名な語源説話です。

また、かぐや姫の歌にある「小倉山(おぐらやま)」は「暗い」にかけてあり(だから光らない)、皇子の返歌の「白山(しらやま)」は「白=光」にかけてある(だから光が薄れた)、という歌の応酬になっています。ここを理解しておくと、歌も覚えやすくなると思います。


第4章:第二の難題「蓬莱の玉の枝」〜庫持皇子の偽装工作〜

次は二人目、車持皇子の「蓬莱の玉の枝」のエピソード(一番長いエピソードです)に進みましょう!

二人目の求婚者、車持皇子のエピソードです。

非常に長いですが、この場面は「完全犯罪の計画と実行」「翁を信じ込ませる熱演」「まさかの職人たちの乱入によるネタばらし」という三段構成になっています。

ここでも、物語の進行に合わせて、記憶のトリガーとなるヒントを挿入します。


【完全犯罪の計画と実行】

(車持皇子は策略家だが、朝廷やかぐや姫にはどう嘘をついて出発した?) 車持(くらもちの)皇子(みこ)は 心たばかりある人にて 公(おほやけ)には 「筑紫(つくし)の國(くに)に 湯あみに罷(まか)らん。」とて 暇(いとま)申して かぐや姫の家には 「玉の枝 とりになんまかる。」と いはせて 下り給ふに、

(家来たちに見送られ、どこまで行った?) 仕(つか)うまつるべき人々 皆 難波まで御おくりしけり。

(そこから先、皇子はどう行動した?) 皇子(みこ)「いと忍びて。」と 宣(のたま)はせて 人も 數多(あまた)率(ゐ)て おはしまさず 近う仕うまつる限(かぎり)して 出で給ひぬ。 御(み)おくりの人々 見奉(たてまつ)り 送りて 歸(かえ)りぬ。

(それからどうした?) 「おはしましぬ。」と 人には 見え給ひて 三日許(ばかり)ありて 漕(こ)ぎ 歸(かえ)り 給ひぬ。

【密かに戻ってきて制作】

(こっそり戻ってきて、何人の職人を呼んで何を作らせた?) かねて事 皆仰せたりければ その時一(ひとつ)の 工匠(たくみ)なりける 内匠(うちたくみ)六人を 召しとりて 容易(たはやす)く 人寄(よ)り来(く)まじき 家を 作りて 構(かまど)を三重にしこめて 工匠(たくみ)等(ら)を入れ給ひつゝ、

(皇子自身もそこに籠り、何をどう作った?) 皇子も同じ所に籠(こも)り給ひて しらせ給ひつるかぎり 十六所(そ)を かみにくどをあけて 玉の枝をつくり給ふ。 かぐや姫 のたまふやうに 違(たが)はずつくり 出でつ。

【都に帰ってくる】

(完成後、どうやって「帰ってきたフリ」をした?) いとかしこくたばかりて、難波に密(みそ)かに もて出でぬ。 「船に乘りて 歸(かえ)り來(き)にけり。」と、殿に 告げやりて いといたく 苦しげなるさまして 居給へり。

(都の人々は何と噂した?) いつか聞きけん 「車持(くらもちの)皇子は 優曇華(うどんげ)の花 持ちて 上(のぼ)り 給へり。」とのゝしりけり。

(それを聞いたかぐや姫はどう思った?) これを かぐや姫 聞きて 「我は この皇子に まけぬべし。」と 胸つぶれて 思ひけり。

【かぐや姫の家に参上する】

(皇子はどんな姿でかぐや姫の家に来た?) かゝるほどに 門(かど)を 叩(たた)きて「車持皇子おはしたり。」と告ぐ。 「旅の御(おほん)姿ながら おはし ましたり。」といへば 逢(あ)ひ 奉(たてまつ)る。

(皇子は何て言った?) 皇子 のたまはく 「『命を 捨てゝ かの玉(たま)の枝 持てきたり。』とて、かぐや姫に 見せ奉り 給へ。」といへば 翁 もちて 入りたり。 この玉の枝に 文をぞ つけたりける。

(持参した玉の枝に添えられた歌は?) いたづらに 身はなしつとも 玉の枝を 手(た)をらでさらに 歸(かえ)らざらまし

(翁はその見事な枝と皇子の姿を見て、かぐや姫にどう言った?) これをも あはれと 見て 居(を)るに 竹取の翁 走り入りて いはく 「この皇子に 申し給ひし 蓬莱の玉の枝を 一つの所も あやしき處(ところ)なく あやまたず もておはしませり。 何をもちてか、とかく申すべきにあらず。 旅の御姿ながら 我御家へも 寄り 給はずして おはしましたり。 はや この皇子にあひ 仕うまつり給へ。」といふに、

(かぐや姫の反応は?) 物もいはず 頬杖(つらづゑ)をつきて いみじく歎(なげ)かしげに思ひたり。

(皇子は図々しくもどこへ上がった?) この皇子(みこ)「今さら何かといふべからず。」といふまゝに 縁(えん)に はひのぼり給ひぬ。

【翁は喜び皇子の味方をする】

翁 ことわりに 思ふ。 「この國(くに)に 見えぬ 玉の枝なり。 この度(たび)は いかでか 辞(いな)び 申(まを)さん。 人ざまも よき人におはす。」など 言ひ居たり。

【かぐや姫の反応】

かぐや姫の いふやう 「親の のたまふことを ひたぶるに 辞(いな)び 申さんことの いとほしさに 得難きものを かくあさましく もてくること」を ねたく思ひ 翁は 閨(ねや)の内(うち)しつらひなどす。

【入手した経緯について】

(翁が「どんな場所にあったのか」と尋ねる)翁 皇子(みこ)に申すやう 「いかなる所にか この木は さぶらひけん。 怪しく 麗(うるわ)しく めでたきものにも。」と申す。

【皇子のほら話始まる】

(いつ出発した?) 皇子 答(こた)へての給はく、 「前一昨年(さきのおととし)の二月(きさらぎ)の十日頃に 難波より 船に乘りて 海の中にいでて 行かん方(かた)も知らず 覺(おぼ)えしかど 『思ふこと成(な)らでは 世の中に 生きて何かせん。』と思ひしかば たゞ 空(むな)しき風に任せて ありく。 『命 死なば いかゞはせん。 生きてあらん限はかくありきて 蓬莱(ほうらい)といふらん山(やま)に逢ふや。』と 浪(なみ)にたゞよひ 漕ぎありきて 我國の内(うち)を離れて 歩(あり)き廻(まわ)りしに 

(道中はどんな苦難があったと語った?)

或(ある)時は 浪(なみ)荒れつゝ 海の底にも 入りぬべく 或時は 風につけて 知らぬ國(くに)にふき寄せられて 鬼のやうなるもの いで來て 殺さんとしき。 或時には 來(き)し方 行く末(ゆくすえ)も知らず 海にまぎれんとしき。 或時には 糧(かて)盡(つ)きて 草の根を食ひ物(くいもの)としき。 或時は 言(い)はん方(かた)なく むくつけなるもの來(き)て 食ひかゝらんとしき。 或時には 海の貝をとりて 命をつぐ。 旅の空に 助くべき人もなき所に いろ〳〵の病をして 行方(ゆくかた)すらも 覺(おぼ)えず 船の 行くに任(まか)せて 海に漂ひて、

(500日目の朝、何が見えた?) 五百日(いかほ)といふ 辰の時(とき)許(ばかり)に 海の中に 遙(はるか)に 山 見ゆ。

(発見したのは、どんな山?)

舟の中(うち)を なんせめて 見る。 海の上に漂へる山 いと大きにてあり。 其(その)山の樣(さま) 高く うるはし。 『是や 我 覓(もと)むる山ならん。』と思へど さすがに畏(おそろ)しく覺(おぼ)えて、山のめぐりを指(さ)し廻(めぐ)らして、二、三日(ふつかみか)許(ばかり)見ありくに 

(誰と出会った?)

天人(あまびと)の粧(よそほひ)したる女 山の中より出で來て 銀(しろがね)の金(かな)鋺(まり)をもて 水を 汲みありく。 

(どんな行動を取った?)

これを見て 船より おりて 『この山の名を 何(なに)とか申す。』と問ふに 女 答へて 曰く 『これは蓬莱(ほうらい)の山なり。』と答ふ。 是(これ)を 聞くに 嬉しき事 限なし。 この女に 『かく宣(のたま)ふは 誰(たれ)ぞ。』と問ふ。

(山にいた天人のような女性は何と名乗った?) 『我名は ほうかんるり。』といひて、ふと 山の中に 入りぬ。

(山の様子は?花や橋、水はどうなっていた?) その山を見るに 更に登るべきやうなし。 その山の そばつらを 廻(まわ)れば 世の中になき 花の木ども 立(た)てり。 金(こがね)銀(しろがね)瑠璃(るり)色の水 流れいでたり。 それには いろ〳〵の玉の橋 わたせり。 

(輝く木があったのでどうした?)

そのあたり 照り輝く 木ども たてり。 その中に この 取(と)りて持(もち)て まうで きたりしは いとわろかり しかども、『のたまひしに 違(たが)はましかば。』とて この花を折りて まうで きたるなり。 山は 限なく おもしろし。

(枝を折って、どうやって帰ってきた?) 世に譬(たと)ふべきに あらざりしかど この枝を 折りてしかば さらに心もとなくて 船に乘りて 追風ふきて 四百餘日(しひゃくよにち)になん まうで 來にし。 大願(だいぐわん)の力にや 難波より 昨日(きのう)なん 都にまうで 來(き)つる。 さらに 潮にぬれたる衣(ころも)をだに 脱ぎ かへなでなん まうで來つる。」と の給へば、翁 聞きて うち歎きて よめる

(この冒険譚を聞いて翁が詠んだ歌は?)

呉竹の よゝのたけとり 野山にも さやはわびしき 節(ふし)をのみ見し

(この歌を聞いた皇子は?) これを 皇子 聞きて 「こゝらの日頃 思ひわび 侍りつる心は 今日なん おちゐぬる。」と の給ひて かへし、

わが袂(たもと) 今日(けふ)乾(かわ)ければ わびしさの ちぐさのかずも 忘られぬべし

との給ふ。

(そこへ突然、誰が現れた?) かゝるほどに、男(をとこ)ども 六人連ねて 庭にいできたり。 一人の男 文挾(ふばさみ)に 文をはさみて まをす。

(彼らは何者で、何を訴えた?) 「作物(つくも)所(どころ)の寮(つかさ)のたくみ 漢部(あやべの)内麿(うちまろ)まをさく 『玉の木を 作りて 仕うまつりしこと 心を碎(くだ)きて、千餘日(せんよにち)に力を盡(つく)したること 少からず。 しかるに祿(ろく)いまだ 賜(たま)はらず。 これを賜はり 分ちて、けごに賜はせん。』」 といひて さゝげたり。

(これを聞いて翁は?)竹取の翁、「この工匠(たくみ)らが申すことは 何事ぞ。」とかたぶきをり。

(これを聞いた皇子は?) 皇子は 我にもあらぬ 気色(けしき)にて 肝消えぬべき心ちして居給へり。

(かぐや姫が取った行動は?) これを かぐや姫 聞きて 「この奉(たてまつ)る文を とれ。」といひて 見れば、

(手紙には何が暴露されていた?) 文に申しけるやう

「皇子の君 千餘日 賤しき工匠等と 諸(もろ)共(とも)に 同じ所に 隱れ居給ひて かしこき玉の枝を 作らせ 給ひて 『官(つかさ)も 賜はらん。』 と仰(おほ)せ給ひき。 これを この頃 案ずるに 『御つかひと おはしますべき かぐや姫の要(えう)じ給ふべき なりけり。』と承(うけたまわ)りて、この宮(みや)より 賜はらんと 申して 給(たま)はるべきなり。」といふを聞きて、

(真相を知り、かぐや姫は、翁に何て言った?) かぐや姫 暮るゝまゝに 思ひわびつる心地 笑(ゑみ)榮えて 翁を呼びとりて いふやう 「誠に蓬莱の木かとこそ 思ひつれ かくあさましき虚事(そらごと)にて ありければ はや疾(はや)く かへし 給へ。」 といへば、

(翁の反応は?) 翁 こたふ 「さだかに 造らせたるものと 聞きつれば かへさんこと いと易し。」 とうなづきをり。

(かぐや姫が皇子に返した歌は?「本物かと思ったけど、偽物でしたね」)かぐや姫の心 ゆきはてゝ ありつる歌のかへし、

まことかと 聞きて見つれば ことの葉を 飾れる玉の 枝にぞありける

といひて、玉の枝もかへしつ。

(翁はどうした?) 竹取の翁 さばかり語らひつるが さすがに 覺(おぼ)えて 眠(ねぶ)りをり。

(皇子はどうして帰った?) 皇子は 立つもはした 居るもはしたにて 居給へり。 日の暮れぬれば すべり出で給ひぬ。

(かぐや姫は訴え出た職人たちに何した?) かのうれへせし 工匠等をば かぐや姫 呼びすゑて 「嬉しき人どもなり。」 といひて 祿(ろく)いと多く とらせ給ふ。

(職人たちは喜んだが、帰り道に何が起きた?) 工匠等いみじく喜びて 「思ひつるやうにもあるかな。」 といひて かへる道にて 車持皇子 血の流るゝまでちようぜさせ給ふ。祿(ろく)得しかひもなく 皆とり捨てさせ給ひてければ 逃げうせにけり。

(皇子自身はどうなった?) 「一生の恥これに過ぐるはあらじ。」との給ひて、たゞ一所深き山へ入り給ひぬ。

(この出来事から、何という言葉が生まれた?) かくてこの皇子 「一生の恥 これに過ぐるは あらじ。 女をえずなりぬるのみにあらず 天(あめ)の下(した)の人の見 思はんことの恥かしき事。」 との給ひて たゞ一所(ひとところ)深き山へ 入り給ひぬ。 宮司(みやつかさ) 候(さぶろ)ふ人々 皆手を分(わか)ちて 求め奉れども 身罷(みまかり)もやしたまひけん え見つけ奉(たてまつ)らずなりぬ。 皇子の 御供に 隱し給はんとて 年頃見え給はざりけるなりけり。 是をなん たまさかる とはいひ始めける。


最後の「たまさかる」は、「玉(の枝)」から「離れる(さかる)」、あるいは「魂(たま)」が「離れる(さかる)」で気落ちする様を表すという、語源説話のオチがついています。

皇子の長ゼリフ(嘘の冒険話)は、非常に詳細で臨場感たっぷりに語られるため、翁がすっかり騙されるのも無理はないという描写が巧みです。そのあとの職人の乱入による急転直下の展開は、物語として非常に面白い部分ですね。


第5章:第三の難題「火鼠の裘」〜右大臣阿倍御主人の落胆〜

次に続くのは、3人目の求婚者、右大臣阿倍御主人(あべのみうし)のエピソードですね。

彼は自分では動かず、その財力を使って中国(唐)の商人に頼むという「金に物を言わせる」アプローチを取ります。

商人の王卿(わうけい)とのやり取りを中心に、記憶のトリガーを作成しました。


(阿倍右大臣は、どのような身分の人だった?) 右大臣阿倍御主人(あべのみうし)は財(たから)豐(ゆたか)に家廣き人にぞ おはしける。

(彼は、誰に手紙を書いた?) その年わたりける唐土(もろこし)船の王卿(わうけい)といふものゝ許(もと)に、文を書きて、

(手紙で何を注文した?) 「火鼠の裘(かはごろも)といふなるもの買ひておこせよ。」とて、

(誰を使者として選び、送り出した?) 仕うまつる人の中に心たしかなるを選びて、小野房守(をののふさもり)といふ人をつけてつかはす。

(使者は王卿に会ってどうした?) もていたりて、かの浦に居(を)る王卿(わうけい)に金をとらす。

(王卿は手紙を見てどうした?) 王卿(わうけい)文をひろげて見て 返事(かえりごと)かく。

(返事の内容は?その品物は中国にあるか?) 「火鼠の裘(かわごろも)我國(くに)になきものなり。 おとには聞けども いまだ 見ぬものなり。

(もし実在するならどうなっているはずだと言った?) 世にあるものならば この國(くに)にも もてまうで 來(き)なまし。

(商売としての難易度は?) いと難(かた)き あきなひ なり。

(それでも、どこかから渡ってきているかもしれないので探してみる?) しかれども もし天竺に たまさかにもて 渡りなば もし長者のあたりに とぶらひ求めんに、

(もし見つからなかった場合はどうする?) なきものならば 使ひに 添へて 金返し奉らん。」といへり。


王卿という商人の返事は非常に誠実で、現実的なビジネスマンとしての対応が描かれています。

この後、実際に「皮衣」らしきものが届きますが、それは本物なのか? という展開へ続きます。

阿倍御主人(あべのみうし)の元に、ついに待ちに待った品物が届くシーンです。

彼がどれほどこの品物を待ちわびていたか、そして手に入れた喜びに我を忘れる様子(中国の方角に向かって拝むなど)が描かれています。

では、記憶のトリガーを付けたものを作成します。


(ついに船は到着した?) かの唐土船(もろこしぶね)來(き)けり。

(使いの小野房守が上京すると聞いて、どうやって迎えさせた?) 小野房守(をののふさもり)まうで來(き)て まうのぼるといふことを 聞きて 歩(あゆ)み疾(とう)する馬をもちて 走らせ 迎へさせ給ふ時に、

(使いは九州からどれくらいの速さで到着した?) 馬に乘りて 筑紫(つくし)よりたゞ七日(なぬか)に上りまうできたり。

(手紙には、この皮衣をどうやって手に入れたと書いてあった?) 文を見るに いはく「火鼠の裘(かはごろも)辛(から)うじて、人を出(いだ)して求めて奉る。

(その皮衣は入手しやすいものか?) 今の世にも昔の世にも この皮は 容易(たはやすく)なきものなりけり。

(元々は誰が持ち込み、どこにあったのか?) 昔かしこき天竺(てんじく)のひじり この國に もて渡りて 侍りける 西の山寺にありと聞き及びて、

(役所に頼んでどうにか入手した?) 公(おほやけ)に申して、辛うじて買ひ取りて奉る。

(預けたお金は足りたのか?足りない分はどうした?) 價(あたい)の金(こがね)少しと 國司(こくし)使ひに申しゝかば 王卿(わうけい)が 物(もの)加へて買ひたり。

(追加でいくら払えと言っている?いつ送れと?) 今 金(かね)五十兩(りやう)たまはるべし。 船の歸(かえ)らんにつけて 賜(た)び送れ。

(もし払わないならどうすると脅している?) もし金(かね)賜はぬものならば 裘(かわぎぬ)の質(しち)かへしたべ。」といへることを見て、

(大臣はお金の請求を見て、文句を言ったか?) 「何おほす。今 金(かね)少しのことにこそあンなれ。 必ず送るべき物にこそあンなれ。

(喜びのあまり、どの方角へ拝んだ?) 嬉しくして おこせたるかな。」とて唐土(もろこし)の方(かた)に向ひて 伏(ふ)し拜(おが)み 給ふ。


「あゆみとうする馬(足の速い馬)」を用意させたり、九州から京都まで「七日」で駆けつけさせたりと、右大臣のせっかちさと熱意が伝わってくる場面です。

また、手紙の内容(王卿の言い分)が非常に具体的で、「お金が足りなかったから立て替えた」というあたりが妙にリアルで、これが偽物であることの伏線になっています(本物ならお金の問題ではないはずですし、寺にあったというのも怪しいですね)。

この後、いよいよその「火鼠の皮衣」をかぐや姫の元へ持参し、火で試すクライマックスへと続きます。進めてよろしいでしょうか?

阿倍右大臣が手に入れた(と思っている)「火鼠の皮衣」の美しさに感嘆し、自信満々でかぐや姫の元へ向かうシーンですね。

衣の具体的な描写(紺青色、金の光)と、大臣の浮かれ具合(化粧をして泊まる気満々)がポイントです。


(箱の装飾はどのようなものだった?) この裘(かはごろも)入れたる箱を見れば 種々(くさぐさ)の うるはしき瑠璃(るり)をいろへて作れり。

(中に入っている衣の色は?) 裘(かわごろも)を見れば 紺青(こんじやう)の色なり。

(毛先はどうなっていた?) 毛の末には 金の光 輝きたり。

(その美しさは本物に見えた?) げに寳(たから)と見え うるはしきこと 比ぶべきものなし。

(燃えないという性質よりも、何が素晴らしかった?) 火に燒けぬことよりも 清(きよ)けうらなること ならびなし。

(大臣は納得して何と言った?) 「むべ かぐや姫の 好(この)もしがり給ふにこそ ありけれ。」との給ひて、

(大切に箱にしまい、どう準備をした?) 「あなかしこ。」とて 箱に入れ給ひて 物の枝につけて、

(自分自身の身だしなみはどうした?) 御身の假粧(けさう)いといたくして、

(今日こそはどうなるつもりでいた?) やがて とまりなんものぞと おぼして、

(添えた歌は?) 歌よみ 加へて 持ちて いましたり。 その歌は、

(「激しい恋の火にも焼けなかったこの衣を着て、涙で濡れた袂も乾く今日です」)

かぎりなき おもひに燒けぬ かはごろも 袂(たもと)かわきて 今日こそは着(き)め


この歌の「おもひ」は「火」を含んだ掛詞になっています。「私の恋の火(思ひ)にも焼けなかった火鼠の皮衣」という自慢と、「今日こそ結婚して(着て)、これまでの辛い涙も乾くでしょう」という期待が込められています。

しかし、読者としては「それ、偽物だよ…」とハラハラする場面でもありますね。

次は、いよいよこの衣を火にくべる運命の実験シーンへと続きます。

阿倍右大臣がついに屋敷に到着し、翁とかぐや姫、そして嫗(おうな)それぞれの思惑が交錯する場面です。

かぐや姫の冷静な疑いの目と、翁・嫗の「今度こそ結婚してほしい」という焦りの対比を意識してヒントを作成しました。


(右大臣はどこへ来て立った?) 家の門(かど)に もて至りて立てり。

(竹取の翁はどう対応した?) 竹取 いで來て とり入れて かぐや姫に見す。

(かぐや姫の感想は?美しいが、本物かどうかはどうだと言った?) かぐや姫 かの裘(かはごろも)を見ていはく 「うるはしき皮なンめり。 わきて まことの皮ならんとも知らず。」

(翁は、とにかくどうすべきだと言った?) 竹取 答へていはく 「とまれ かくまれ まづ請(しやう)じ入れ奉らん。

(見たことない立派なものだから本物だと思いなさい。相手をどうさせてはいけない?) 世の中に見えぬ 裘(かわごろも)のさま なれば 是をまことゝ思ひ給ひね。 人 な いたく わびさせ給ひそ。」

(そう言って、大臣をどこへ通した?) といひて、呼びすゑたてまつれり。

(座敷に通した様子を見て、嫗(おばあさん)はどう思った?) かく呼びすゑて「この度(たび)は 必ずあはん。」と 嫗(おうな)の心にも思ひをり。

(翁は、かぐや姫が独身であることをどう思っていた?) この翁は かぐや姫の やもめなるを 歎(なげ)かしければ「よき人にあはせん。」と思ひはかれども、

(しかし、かぐや姫が強く拒否するので、無理強いできないのはどういうこと?) 切(せち)に「否(いな)」といふことなれば、え強(し)ひぬは ことわりなり。


ここで面白いのは、かぐや姫だけが「わきて(区別して)まことの皮ならんとも知らず(本物かどうかわからない)」と冷静な点です。

翁と嫗は「こんな立派なものなんだから本物に決まってる」「早く結婚させたい」という気持ちが先行して、確認作業を飛ばそうとしています。

次は、いよいよかぐや姫が「火に入れてみてください」と提案し、大臣が自信満々にそれを許可するクライマックスへ進みます。

阿倍右大臣の「偽の皮衣」が燃え尽き、彼の面目も丸潰れになるクライマックスシーンです。

自信満々の大臣が一瞬で青ざめる様子と、かぐや姫の「あなうれし」という本音が漏れる瞬間、そして最後にまた語源説話で落ちがつく構成です。

記憶のトリガーとなるヒントを挿入しました。


(かぐや姫は、どうやって本物かどうか確かめると提案した?) かぐや姫 翁にいはく、「この裘(かはごろも)は 火に燒かんに 燒けずはこそ實(じつ)ならめと思ひて 人のいふことにも まけめ。

(翁は、見たことのない立派なものだから疑う必要はないと言っていたが、かぐや姫はどう返した?) 『世になきものなれば それを實(じつ)と 疑(うたが)ひなく思はん。』との給ひて なほこれを燒きて見ん。」といふ。

(それを聞いた翁はどう思った?) 翁「それ さもいはれたり。」といひて 大臣おとゞに「かくなん申す。」といふ。

(大臣は、それを聞いて自信満々にどう答えた?) 大臣答へていはく「この皮は唐土(もろこし)にもなかりけるを 辛うじて 求め尋ね得たるなり。 何(なに)の疑ひか あらん。 さは申すとも はや燒きて 見給へ。」 といへば、

(実際に火にくべるとどうなった?) 火の中(うち)にうちくべて 燒かせ 給ふに めら〳〵と燒けぬ。

(それを見たかぐや姫の感想は?) 「さればこそ 異物(こともの)の 皮なりけり。」といふ。

(大臣の反応は?顔色は?) 大臣これを見給ひて 御顔は 草の葉の色して居給へり。

(かぐや姫の本音は?) かぐや姫は 「あなうれし。」 と喜びて 居たり。

(かぐや姫が箱に入れて返した歌は?「跡形もなく燃えると知っていれば、火の外に置いて見たでしょうに」) かのよみ給へる歌のかへし、箱に入れて かへす。

なごりなく もゆと知りせば かは衣(ごろも) おもひの外(ほか)に おきて見ましを

とぞありける。

(大臣はどうして帰った?) されば 歸(かえ)り いましにけり。

(世間の人々は大臣とかぐや姫のことをどう噂して尋ねた?) 世の人々 「安倍大臣は 火鼠の裘(かわごろも)を もていまして かぐや姫にすみ給ふとな。 こゝにやいます。」など問ふ。

(ある人が事実をどう伝えた?) 或人のいはく 「裘(かわごろも)は 火にくべて 燒きたりしかば めら〳〵と燒けにしかば かぐや姫 逢ひ給はず。」といひければ、

(この出来事から、期待外れで張り合いがないことを何と言うようになった?) これを聞きてぞ とげなきものをば あへなし とはいひける。


最後の「あへなし」は、「安倍(あべ)なし(阿倍大臣がいない=結婚できなかった)」と「敢え無し(期待外れ)」を掛けた語源説話です。

「めらめらと焼けぬ」の擬音語も印象的で覚えやすいですね。

これで3人目まで終わりました。次は4人目、大伴大納言の「龍の首の珠」のエピソードで、実際に冒険に出て散々な目に遭う、一番アクション性の高いエピソードになります。


第6章:第四の難題「龍の首の玉」〜大伴大納言の悲惨な冒険〜

4人目の求婚者、大伴大納言(おおとものだいなごん)の冒険(?)の始まりです。

彼は非常に武断的で、「主君の命なら何でもできるはずだ」という精神論を振りかざすタイプです。家来たちとの温度差を意識すると覚えやすくなります。


(大伴大納言は、まず誰を集めて何を言った?) 大伴御行(みゆき)の大納言は 我が家(いえ)に ありとある人を 召し集めて の給(たま)はく、

(欲しい物は何か?それを持ってきた者への報酬は?) 「龍(たつ)の首に五色(ごしき)の光ある玉あンなり。 それをとり奉(たてまつ)りたらん人には願はんことをかなへん。」との給ふ。

(家来たちはそれを聞いて、まずどう反応した?) 男(をのこ)ども仰(おほせ)の事を承(うけたま)りて申さく、

(命令は尊いが、実行可能か?普通の玉でも難しいのに…) 「仰(おほせ)のことはいとも尊(たふ)とし。 たゞし この玉 容易(たはやすく)えとらじを 况(いはん)や龍(たつ)の首の玉は いかゞとらん。」と申しあへり。

(弱気な家来に対し、大納言は「主君の使い」としての心構えをどう説いた?) 大納言のたまふ 「君(きみ)の使ひといはんものは『命を捨てゝも己(おの)が君の仰(おほせ)事をば かなへん。』とこそ思ふべけれ。

(外国にあるわけでもない。龍はこの国のどこにでもいるだろう?) この國(くに)になき 天竺(てんじく)唐土(もろこし)の物にもあらず この國の海山より 龍(たつ)は おり のぼるものなり。 いかに思ひてか 汝等(なんぢら)難(かた)きものと申すべき。」

(それを言われて、家来たちは渋々どう答えた?) 男ども申すやう「さらば いかゞはせん。難(かた)きものなりとも 仰事に從ひて もとめにまからん。」と申す。

(大納言は満足げに笑い、彼らをどう称えた?) 大納言 見 笑ひて 「汝等 君の使ひと 名を流しつ。 君の仰事をば いかゞは 背(そむ)くべき。」との給ひて、

(そして実際に送り出した目的は?) 龍(たつ)の首の玉とりにとて 出(い)だしたて給ふ。

(旅費はどうした?家中の財産をどれくらい持たせた?) この人々の道の糧(かて)食物(くいもの)に 殿のうちの絹・綿・錢(ぜに)などあるかぎり 取り出で そへて遣はす。

(彼らが帰るまで自分はどう過ごす?手ぶらで帰ってくるなと釘を刺した?) この人々ども 歸(かえ)るまで いもひ(精進潔斎)をして 「我は居(を)らん。 この玉 とり得では 家に歸(かえ)り来(く)な。」との給はせけり。


この大納言の「龍なんてそこの海や山にいるだろう」という無茶苦茶な理屈と「家中の財産をごっそり持たせて送り出す」という極端な行動力が、後の悲劇(喜劇)を生みます。

さて、大量の旅費を持って追い出された家来たちは、本当に龍を探しに行くのでしょうか? それとも…?

大量の財産(旅費)を持たされて追い出された家来たちの逃亡劇と、残された大納言が結婚準備に浮かれる様子の対比が面白い場面ですね。

家来たちの本音(悪口)と、大納言の空回りを意識してヒントを作成しました。


(家来たちは、大納言からどう厳しく言われて送り出された?) 「おの〳〵仰(おほせ)承りて 罷(まか)りいでぬ。 龍(たつ)の首の玉 とり得ずは 歸(かえ)りくな。」との給(たま)へば、

(実際にはどこへ向かうつもりだった?) いづちも〳〵足のむき たらん方(かた)へ いなんとす。

(主人のことをどう陰口を言い合った?) かゝるすき事(好色なこと・物好きなこと)を し給ふことゝ そしりあへり。

(渡された旅費はどうした?) 賜はせたる物は おの〳〵分けつゝとり、

(それぞれどこへ消えた?) 或(ある)は 己(おの)が家に こもりゐ 或(ある)は おのがゆかまほしき所へいぬ。

(主君の命令についてどう不満を述べた?) 「親・君と申すとも、かくつきなきことを仰せ給ふこと。」と ことゆかぬものゆゑ 大納言を謗(そし)りあひたり。

(一方、大納言はかぐや姫を迎えるために屋敷をどう改装した?) 「かぐや姫 すゑんには 例のやうには 見にくし。」との給ひて、麗しき屋をつくり給ひて 漆を塗り 蒔繪(まきゑ)をし いろへしたまひて 屋の上には 糸を染めて いろ〳〵に葺(ふ)かせて 内々のしつらひには いふべくもあらぬ綾(あや)織(おり)物に繪(え)を書きて間(ま)ごとに張(は)りたり。

(さらに、今いる奥さんたちはどうした?) もとの妻(め)どもは去りて

(独り身になった大納言は、どう過ごしていた?) 「かぐや姫を必ずあはん。」とまうけして、獨(ひとり)明し暮したまふ。


家来たちはもらった金を山分けしてトンズラし、大納言は奥さんを追い出して屋敷をラブホテル並みに派手に改装して待っているという、なんとも滑稽な状況です。

この後、待ちきれなくなった大納言が自ら船を出して龍退治に向かうものの、嵐に遭ってひどい目に遭う展開へと続きます。

大伴大納言(おおとものだいなごん)が、逃げた家来たちを信じて待ち続け、ついに痺れを切らして自ら出向く場面です。

彼の「思い込みの激しさ」と、周囲(船乗りたち)の冷ややかな反応の対比がポイントです。


(家来たちをどうやって待っていた?) 遣(つか)はしゝ人は 夜晝(よるひる)待ち給ふに 年越ゆるまで音(おと)もせず、

(連絡がないので心配になり、どんな姿でどこへ向かった?) 心もとながりて いと忍びて たゞ舍人(とねり)二人召繼(めしつぎ)としてやつれ給ひて 難波の邊(ほとり)におはしまして、

(そこで船乗りたちに何を尋ねた?) 問ひ給ふことは「大伴大納言の人や 船に乘りて龍(たつ)殺して そが首の玉 とれるとや聞く。」と問(と)はするに、

(船乗りたちはどう答えた?) 船人(ふなびと)答へていはく「怪しきことかな。」と笑ひて 「さるわざする船もなし。」と答ふるに、

(それを聞いて大納言はどう思った?) 「をぢなき(意気地なし・愚か)ことする船人(ふなびと)にもあるかな。 え知らでかくいふ。」とおぼして、

(自分ならどうすると豪語して、家来を待つのをやめた?) 「我 弓の力は 龍(たつ)あらば ふと射殺して 首の玉はとりてん。 遲く來るやつばらを待たじ。」との給ひて、

(そして自ら船に乗り、どこまで行ってしまった?) 船に乘りて海ごとにありき給ふにいと遠くて 筑紫(つくし)の方(かた)の海に 漕(こ)ぎいで 給ひぬ。


「をぢなき(意気地なし)」と船乗りたちを見下し、「自分の弓なら龍なんてイチコロだ」と自信満々で海に出る大納言ですが、このあとの展開(嵐でボロボロになる)への強烈な「フリ」になっています。

次は、いよいよ龍(実際は嵐)に遭遇し、大納言がパニックになるシーンです。

大納言の狼狽ぶりと、巻き込まれた船頭(楫取:かじとり)の嘆きがポイントです。この嵐が「龍のたたり」だと解釈される伏線にもなっています。


(海に出ると、何が起きた?) いかゞしけん はやき風吹きて 世界くらがりて船を吹きもてありく。

(船の状況は?) いづれの方(かた)とも知らず 船を海中(うみなか)にまかり入りぬべくふき廻(まわ)して、

(波と雷はどうだった?) 浪(なみ)は船にうちかけつゝまき入れ 神(かみ=雷)は 落ちかゝるやうに閃(ひらめ)きかゝるに、

(大納言はパニックになって何と言った?) 大納言は惑ひて「まだかゝる(このような)わびしきめ(つらい目)見ず。 いかならんとするぞ。」との給ふ。

(船頭(楫取)はどう答えた?) 楫取(かじとり)答へてまをす「こゝら船に乘りてまかりありくに まだかくわびしきめを見ず。

(最悪の場合、船はどうなる?) 御(み)船 海の底に入らずは 神落ちかゝりぬべし。

(運良く助かっても、どこへ飛ばされる?) もしさいはひに神の助けあらば、南海(みなみうみ)にふかれ おはしぬべし。

(こんな目に遭うのは誰のせいだと言って泣いた?) うたてある(自分では何もできないひどい)主(ぬし)の御(み)許(もと)に仕(つか)へ奉まつりてすゞろなる(思いがけない・無駄な)死にをすべかンめるかな。」とて楫取(かじとり)泣く。


「神(かみ)」はここでは「雷」のことです。「神鳴り」ですね。

船頭に「うたてある主(ひどい主人)」とはっきり言われてしまっていますが、大納言はそれどころではありません。

この後、大納言自身も「龍に殺される!」と錯乱し、とんでもないことを叫び始めます。

次は、大伴大納言が、船頭に叱られて龍(神)に命乞いをする、最も情けない(そして滑稽な)場面です。

「龍を殺す」と豪語していた姿とのギャップと、必死の形相、そしてボロボロになった後の姿がポイントです。


(大納言は船頭の言葉にどう反論した?) 大納言 これを聞きて の給(たま)はく「船に乘りては楫取(かじとり)の申すことをこそ 高き山ともたのめ。 などかくたのもしげなきことを申すぞ。」と、あをへど(青吐く=嘔吐)をつきて の給ふ。

(船頭は、この嵐は何の仕業だと言った?) 楫取(かじとり)答へてまをす「神ならねば 何業(なにわざ)をか仕(つか)うまつらん。 風吹き 浪(なみ)はげしけれども神さへいたゞきに 落ちかゝるやうなるは、

(龍をどうしようとしたからこうなった?) 龍を殺さんと求め 給ひさぶらへばかくあンなり。 はやても 龍の吹かするなり。

(助かるためにはどうしろと?) はや神に祈り給へ。」といへば、

(大納言は素直に従い、どう祈り始めた?) 「よきことなり。」とて「楫取(かじとり)の御(おん)神 聞(きこ)しめせ。 をぢなく 心幼く 龍を殺さんと思ひけり。 今より後は毛一筋をだに 動し奉(たてまつ)らじ。」と、祝詞(よごと)をはなちて、

(どれくらい祈った?) 立居(たちい)泣く〳〵呼ばひ給ふこと 千度(ちたび)ばかり 申し給ふけにやあらん、

(その結果、天候はどう変わった?) やう〳〵神(かみ=雷)なりやみぬ。 少しあかりて 風は なほ はやく吹く。

(船頭は何と判断した?) 楫取(かじとり)のいはく、「これは龍のしわざにこそありけれ。 この吹く風は よき方(かた)の風なり。 あしき方の風にはあらず。 よき方に赴(おもむ)きて 吹くなり。」といへども、

(大納言はそれを信じたか?) 大納言は是を聞き入れ給はず。

(数日後、船はどこへ着いた?) 三四日(みかよか)ありて 吹き返しよせたり。 濱(はま)を見れば 播磨(はりま)の明石の濱(はま)なりけり。

(大納言はどこへ着いたと思っていた?) 大納言「南海の濱(はま)に吹き寄せられたるにやあらん。」と思ひて 息つき 伏し給へり。

(地元の役人が挨拶に来ても、大納言はどうしていた?) 船にある男ども國(くに)に告げたれば、 國の司(つかさ)まうで訪(とぶら)ふにも、えおきあがり給はで 船底にふし給へり。

(陸へ上がって初めて気づいたことと、その時の容態は?) 松原に御(み)筵(むしろ)敷(し)きておろし奉(たてまつ)る。 その時にぞ「南海にあらざりけり。」と思ひて辛うじて起き上り給へるを見れば、

(どんなひどい姿になっていた?) 風(かぜ)いとおもき人(風邪が重い=重病人)にて 腹いとふくれ こなたかなたの目には 李(すもも)を二つ つけたるやうなり。

(それを見た役人の反応は?) これを見 奉(たてまつ)りてぞ、國(くに)の司(つかさ)もほゝゑみたる。


「あをへどをつきて(嘔吐して)」や、「腹が膨れて目がスモモのようになった(水死体寸前のようなむくみ顔)」という描写は、貴族である大納言を徹底的にこき下ろしていて強烈ですね。

「千度(ちたび)ばかり申し給ふ」という必死さも笑いを誘います。

この後、ほうほうの体で京へ戻った大納言を、世間の人々がどう噂したか、そして最後の語源説話(「目に李」や「食べられず」)へと続きます。

大伴大納言の冒険の結末です。

「龍の首の玉」のエピソードのオチとなる部分です。大納言の負け惜しみと、世間の皮肉、そして最後の語源説話(ダジャレ)までを含んでいます。

物語の流れ(帰宅→家来との再会→負け惜しみ→元妻と世間の反応→語源)に沿って、記憶のトリガーを作成しました。


(動けない大納言は、どうやって家まで運ばれた?) 國(くに)に仰(おほ)せ給ひて腰輿(たごし)作らせたまひて によぶ〳〵 荷(に)なはれて 家に入り 給ひぬるを

(それを聞きつけて、逃げていた家来たちが戻ってきて何と言い訳した?) いかで聞(き)きけん 遣(つかは)しゝ男ども參りて申すやう「龍(たつ)の首の玉を えとらざりしかばなん、殿へも え參らざりし『玉の とり難(がた)かりしことを 知り給へればなん、勘當(かんだう)あらじ。』とて參りつる。」と申す。

(大納言は怒るどころか、起き上がって彼らをどう評価した?) 大納言起き出でての給はく「汝等(なんぢら)よくもて來(こ)ずなりぬ。

(龍の正体は何だったと言っている?) 龍(たつ)は鳴神(なるかみ=雷神)の類(たぐひ)にてこそありけれ。

(玉を取ろうとしていたらどうなっていた?) それが玉をとらんとて そこらの人々の害(がい)せられなんとしけり。

(もし捕まえていたら、自分はどうなっていた?) まして龍を捕へたらましかば またこともなく 我は害(がい)せられなまし。 よく捕へずなりにけり。

(かぐや姫のことを何と呼び、どう罵った?) かぐや姫てふ(という)大(おほ)盜人(ぬすびと)のやつが人を殺さんとするなりけり。

(今後、どうするなと命じた?) 家のあたりだに今は通らじ。 男どもゝなありきそ。」とて、

(残っていた財産をどうした?) 家に少し殘(のこ)りたりけるものどもは 龍の玉 とらぬものどもに賜(た)びつ。

(これを聞いた元の奥さんの反応は?) これを聞きて 離れ給ひし もとのうへ(妻)は 腹をきりて笑ひ給ふ。

(かぐや姫のために作った豪華な屋敷はどうなった?) 糸をふかせて作りし屋(や)は鳶(とび) 烏(からす)の巣に 皆 咋(く)ひもていにけり。

(世間の人は、大納言が玉を持ってきたのかとどう噂した?) 世界の人の いひけるは 「大伴の大納言は 龍の玉や とりておはしたる。」

(それに対する皮肉な答えは?「李(すもも)のような玉(腫れた目)を持ってきたよ」) 「いなさもあらず。 御眼(おんまなこ)二つに李(すもも)のやうなる玉をぞ 添へていましたる。」 といひければ、

(そこから、理不尽なことや食べられないものを何と言うようになった?) 「あなたべがた。」 といひけるよりぞ 世にあはぬ事をば あなたへがた とはいひ始めける。


最後の「あなたへがた」は、「あな(ああ)、耐へ難(がた)(我慢できない)」と、「あな、食(た)へ難(がた)(食べられない)」を掛けた言葉遊びです。

「李のような目(おいしそうな玉)」なのに「食べられない」=「理不尽だ/たまらない」というオチになっています。

これで最もアクション要素の強かった大伴大納言のエピソードが終わりました。


第7章:第五の難題「燕の子安貝」〜石上中納言の悲劇〜

次は最後の求婚者、石上中納言(いそのかみの中納言)の「燕の子安貝」のエピソードです。このエピソードは、笑い話ではなく、少し悲劇的な結末を迎えます。

最後の求婚者、中納言石上麿呂(いそのかみのまろ)のエピソードですね。

彼は他の求婚者と違い、家来たちの意見を聞き入れて組織的に動こうとしますが、それが裏目に出る展開となっていきます。

ここでも物語の流れ(命令→家来の疑問と助言→作戦実行)に沿って、記憶のトリガーを作成しました。


(最後の中納言は、まず家来たちにどんな命令を出した?) 中納言石上麻呂(いそのかみのまろ)は家につかはるゝ男どもの許(もと)に「燕(つばくらめ)の巣くひたらば告げよ。」との給ふを、

(家来たちはそれを聞いてどう思った?) うけたまはりて「何の料(れう:目的)にかあらん。」と申す。

(中納言は何を手に入れるためだと答えた?) 答へての給ふやう「燕(つばくらめ)のもたる子安貝(こやすがひ)とらん料(れう)なり。」との給ふ。

(家来たちは、そんなものは手に入らないとどう反論した?) 男ども答へて申す「燕(つばくらめ)を數多(あまた)殺して見るにだにも腹になきものなり。

(子を産む時に出すらしいが、人が見ているとどうなる?) たゞし子産む時なん いかでかいだすらん、はら〳〵と人だに見れば失せぬ。」と申す。

(そこへ別の者が、燕がたくさん巣を作る場所があると提案した。どこ?) また人のまをすやう 「大炊寮(おほゐづかさ)の飯(いひ)炊(かし)ぐ屋(や)の棟(むね)のつくの穴毎(ごと)に燕(つばくらめ)は巣くひ侍(はべ)り。

(そこでどういう作戦をとればいいと提案した?) それにまめならん男どもを率(ゐ)てまかりて あぐら(足場)をゆひて 上げて窺(うかが)はせんに そこらの燕(つばくらめ)子(こ)うまざらんやは。 さてこそ取らしめ給(たま)はめ。」と申す。

(その名案を聞いて中納言はどう反応した?) 中納言 喜び給ひて「をかしき事にもあるかな。 もとも え知らざりけり。 興(きょう)あること申したり。」との給ひて、

(早速、何人の男たちを送り込んだ?) まめなる男ども二十人ばかり遣(つか)はして あなゝひ(足場)に上げすゑられたり。


「大炊寮(おほゐづかさ)」は宮中の食事を用意する役所のことです。

「あなゝひ」は高い足場のことですね。

男たちを大量に動員して足場から監視させるという、大掛かりな作戦に出ましたが、燕たちは警戒して寄り付かなくなってしまいます。

この後、中納言はさらに焦り、翁のアドバイスを聞いて作戦を変更しますが、それが悲劇的な事故(転落)につながります。

石上中納言(いそのかみの中納言)が、おじいさん(くらつ麿)のアドバイスを受けて作戦を変更するシーンですね。

大掛かりな作戦が失敗し、より慎重で具体的な方法へ切り替える流れを意識してヒントを作成しました。


(中納言は待ちきれず、何度も使いを送ってどう尋ねた?) 殿より使ひ ひまなく 給はせて 「子安貝とりたるか。」と問はせ給ふ。

(現場からの返事は?燕はどうなった?) 「燕も人の數多(あまた)のぼり居たるにおぢて、巣にのぼりこず。」かゝるよしの御返事(かえりごと)を申しければ、

(それを聞いて中納言はどう悩んだ?) 聞き給ひて「いかゞすべき。」と思(おぼ)しめし煩(わづら)ふに、

(そこで、寮の役人である老人がどう申し出た?) かの寮(つかさ)の官人(くわんじん)くらつ麿(まろ)と申す翁 申すやう「子安貝とらんと思(おぼ)しめさば たばかり(はかりごと)申さん。」とて、

(中納言はその老人に対してどんな態度で接した?) 御前(おまえ)に參(まい)りたれば 中納言 額(ぬか)を合せて むかひ給へり。

(くらつ麿は、今のやり方についてどう指摘した?) くらつ麿が申すやう「この燕の子安貝は 惡(あ)しくたばかり(工夫)て取(と)らせ給ふなり。 さては えとらせ給(たま)はじ。

(なぜ燕が寄り付かないと言った?足場のせい?) あなゝひに おどろ〳〵しく 二十人の人の のぼりて侍れば あれて(離れて)寄りまうで來(こ)ずなん。

(では、まず足場と人をどうすべきだと提案した?) せさせ給ふべきやうは このあななひを 毀(こぼ)ちて 人皆退(しりぞ)きて、

(代わりに、どのような装置を使うべき?) まめならん人 一人を荒籠(あらこ)に 載(の)せすゑて 綱をかまへて、

(どのタイミングで引き上げればよい?) 鳥の子 産まん間に 綱を釣りあげさせて ふと子安貝を とらせ給はんなん よかるべき。」と申す。

(中納言はその案を採用し、どう指示した?) 中納言の給(のたま)ふやう、「いとよきことなり。」とて、あなゝひを毀(こぼ)ちて 人皆歸(かえ)りまうで来(き)ぬ。


中納言が身分の低い老人(くらつ麿)に対して「額を合わせて(敬意を持って)」接しているところに、彼の必死さが表れています。

また、「荒籠(あらこ)」というエレベーターのような装置を使う具体的な指示も面白いですね。

次は、いよいよ中納言自身がこの「荒籠」に乗って待機し、燕が来た瞬間に引き上げさせるものの、転落事故が起きる悲劇のシーンへと続きます。

石上中納言が、部下の失敗に業を煮やして自ら「荒籠(あらこ)」に乗り込み、転落してしまう痛ましい(しかしどこか滑稽な)場面ですね。

焦りすぎて自ら危険に飛び込む中納言の心理と、事故の瞬間を意識してヒントを作成しました。


(中納言は、引き上げるタイミングについてどう質問した?) 中納言 くらつ麿に の給はく 「燕は いかなる時にか 子を産むと知りて 人をば あぐべき。」とのたまふ。

(くらつ麿は、燕が卵を産むときどんな行動をすると教えた?) くらつ麿 申すやう 「燕は 子うまんとする時は 尾をさゝげて 七度廻りてなん 産み落すめる。 さて七度廻らん折(をり) ひき上げて その折(をり)子安貝は とらせ給へ。」と申す。

(中納言はそれを聞いて喜び、どのように行動した?) 中納言 喜び給ひて 萬(よろづ)の人にも知らせ給はで みそかに 寮(つかさ)にいまして 男どもの中に交りて 夜を晝(ひる)になして 取らしめ 給ふ。

(くらつ麿への感謝のしるしとして何を与えた?) くらつ麿 かく申すを いといたく喜び給ひての給ふ「こゝに使(つか)はるゝ人にもなきに 願をかなふることの嬉しさ。」と宣(のたま)ひて、御衣(おんぞ)ぬぎて被(かづ)け給ひつ。

(さらに何と言って帰らせた?) 更に「夜(よ)さり この寮(つかさ)にまうで来(こ)。」とのたまひて遣(つか)はしつ。

(夕方、現場で何を確認した?) 日暮れぬれば かの寮(つかさ)におはして 見給ふに 誠に燕 (つばくらめ)巣作れり。

(言われた通り燕が動いた時、人を上げて探らせたが結果は?) くらつ麿 申すやうに、尾をさゝげて廻るに 荒籠(あらこ)に人を載せて釣りあげさせて 燕の巣に 手をさし入れさせて探るに 「物もなし。」と申すに、

(中納言は腹を立てて、誰が登ると言い出した?) 中納言「惡(あ)しく探れば なきなり。」と腹だちて「誰ばかり おぼえんに。」とて「我 のぼりて 探らん。」とのたまひて、

(籠に乗って近づき、タイミングを合わせて手を伸ばすとどうなった?) 籠(こ)にのりて つられ登りて窺(うかが)ひ給へるに 燕(つばくらめ)尾をさゝげて いたく廻るに合せて 手を捧(ささ)げて 探り給ふに 手に 平(ひら)めるもの さはる時に、

(何かを掴んだ中納言は、何と叫んだ?) 「われ 物 握りたり。 今は おろしてよ。 翁 しえたり(翁の言った通りだ!)。」との給ひて、

(皆が慌てて降ろそうとした結果、悲劇が起きた。どうなった?) 集りて「疾く おろさん。」とて 綱をひきすぐして(引きすぎて) 綱 絶ゆる 即(すなは)ち 八島(やしま)の鼎(かなへ)の上に のけざま(あおむけ)に 落ち 給へり。


「翁しえたり」は、「老人(くらつ麿)の言った通りだ、でかした!」という意味です。

その直後、綱が切れて「鼎(かなえ=大きな金属製の釜)」の上に背中から落ちるという大事故が発生します。

この後、中納言は大怪我を負いながらも、自分が握りしめている「子安貝(だと思っているもの)」を確認しますが……。

石上中納言(いそのかみの中納言)の悲劇的な結末、そして、かぐや姫との最期の歌のやり取りです。

大怪我を負いながらも「貝(=成果)」を握りしめていると信じていた中納言の絶望と、最後に少しだけ心が通う場面です。

物語の流れ(救出→確認と絶望→語源→悪化と恥→歌の贈答→死→語源)に沿って、ヒントを作成しました。


(転落した中納言を見て、人々はどうした?) 人々 あさましがりて(驚き慌てて)寄りて抱へ 奉れり。

(中納言の目はどうなっていた?) 御目は しらめにて ふし給へり。

(人々はどうやって介抱した?) 人々 御(み)口に水を掬(すく)ひ入れ奉る。

(息を吹き返したところで、どうやって下ろした?) 辛うじて 息(いき)出(い)で給へるに また 鼎(かなへ)の上より 手とり 足とりして さげおろし 奉る。

(気分を聞くと、どう答えた?どこが痛い?) 辛うじて「御(み)心地は いかゞおぼさるゝ。」 と問へば 息の下にて「ものは少し覺(おぼ)ゆれど 腰 なん動かれぬ。

(それでも、何を握っているから嬉しいと言った?) されど子安貝を ふと握り もたれば 嬉しく覺(おぼ)ゆるなり。

(明かりを持ってこい、何を見たい?) まづ 脂燭(しそく)さして来(こ)。 この貝顔(かひがほ)みん。」と、

(頭を持ち上げて手を開くと、握っていたものは何だった?) 御(み)頭(ぐし)もたげて御(おほん)手をひろげ 給へるに 燕のまりおける古(ふる)糞(ぐそ)を握り給へる なりけり。

(それを見て何と嘆いた?) それを見給ひて「あな かひなの わざや。」との給ひけるよりぞ、

(予想と違う結果になることを、何と言うようになった?) 思ふに違(たが)ふことをば、かひなしとはいひける。

(貝ではないと分かって気分はどうなった?腰の状態は?) 「かひにも あらず。」と見給ひけるに 御(おほん)こゝちも違(たが)ひて 唐櫃(からびつ)の蓋(ふた)に入れられ給ふべくもあらず 御腰は折れにけり。

(中納言は、こんな子供っぽい失敗をどうしようとした?) 中納言は いはけたるわざして 病むことを 人に聞かせじとし 給ひけれど それを病にて いと弱くなり給ひにけり。

(貝が取れなかったことより、何が辛かった?) 貝をえとらずなりにけるよりも 人の聞き笑はんことを 日にそへて 思ひ給ひければ たゞに病み死ぬるよりも 人ぎき恥(はづ)かしく覺(おぼ)え 給ふなりけり。

(これを聞いたかぐや姫が送った見舞いの歌は?「待っていた甲斐(貝)がなかったと聞きましたが本当ですか」) これをかぐや姫 聞きて とぶらひに(見舞いに送った)やる歌、

年を經て 浪立ちよらぬ すみのえの まつかひなしと 聞くはまことか

とあるをよみて 聞かす

(中納言は瀕死の状態でどうやって返事を書いた?) いと弱き心地に頭(かしら)もたげて 人に紙もたせて 苦しき心地に 辛うじてかき給ふ。

(返した歌は?「貝(甲斐)はこんなものでしたが、せめてあなたに会って命を救われたい」)

かひはかく ありけるものを わびはてゝ 死ぬる命を すくひやはせぬ

と書きはてゝ 絶え入り給ひぬ(息が絶えてしまわれた)。

(これを聞いてかぐや姫はどう思った?) これを聞きて かぐや姫 少し哀(あはれ)とおぼしけり。

(この出来事から、嬉しいことがあることを何と言うようになった?) それよりなん 少し嬉しきことをば かひありとはいひける。


最後の「かひあり(甲斐あり)」は、中納言の死に対する「かひなし」との対比、あるいは最後に歌を交わして少しだけ心が通じた(かぐや姫が哀れと思ってくれた)ことにかかっています。

五人の求婚者の中で唯一、命を落とすという悲しい結末ですが、最後にほんの少しだけかぐや姫の心が動いたエピソードでもあります。

これで五人の求婚者の物語はすべて終わりました。

物語は後半、かぐや姫が月へ帰る準備(帝との交流や、月の使者の到来)へと進んでいきます。

第8章:帝の登場〜かぐや姫の拒絶とプラトニックな交流〜

物語は後半に入り、帝(みかど)が登場します。

かぐや姫の噂を聞きつけた帝が、内侍(ないし・宮中の女官)の中臣(なかとみ)のふさ子を使わして様子を探らせる場面です。

かぐや姫の頑なな態度と、内侍の威圧的な態度の対立がポイントです。


(帝はかぐや姫の美貌の噂を聞いて、誰を呼び出した?) さて かぐや姫 かたち世に似ず めでたきことを帝(みかど)聞こしめして内侍(ないし)中臣(なかとみ)のふさ子に の給(たま)ふ、

(多くの求婚者を無駄死にさせたかぐや姫は、どんな女性なのか?) 「多くの人の身を徒(あだ)になして あはざンなる かぐや姫は いかばかりの女ぞ。」と、

(内侍にどう命じた?) 「罷(まか)りて見て參(まゐ)れ。」との給ふ。

(ふさ子は竹取の家に着くと、どう迎えられた?) ふさ子 承りて まかれり。 竹取の家に畏(かしこ)まりて 請(しやう)じ入れてあへり。

(嫗(おうな)に対して、内侍は何のために来たと言った?) 嫗(おうな)に 内侍 のたまふ、「仰(おほせ)ごとに かぐや姫の容(かたち)優(いう)におはすとなり。 能(よ)く見て參るべきよし の給はせつるになん 參りつる。」といへば、

(嫗はそれを聞いてどうした?) 「さらばかくと申し侍らん。」といひて入りぬ。

(かぐや姫に何と言って会うように勧めた?) かぐや姫に「はや かの御使(みつかひ)に 對面(たいめん)し給へ。」といへば、

(かぐや姫はどう拒否した?容姿に自信がない?) かぐや姫「よき容(かたち)にもあらず。いかでか見(ま)みゆべき。」といへば、

(嫗は、帝の使いを無視してはいけないとどう諭した?) 「うたても の給(たま)ふかな。 帝の御(み)使(つかひ)をば いかでか疎(うと)にせん。」といへば、

(かぐや姫は、帝の命令についてどう答えた?) かぐや姫 答ふるやう「帝の召(め)しての給はんこと かしこし(恐れ多い)とも思はず。」といひて、更に見(み)ゆべくもあらず。

(自分の子供のように育ててきたが、かぐや姫の態度がどうだったので無理強いできなかった?) うめる子のやうにはあれど いと心 恥づかしげに(気後れするほど)疎(おろそ)かなるやうにいひければ 心のまゝにも え責めず。

(嫗は内侍にどう言い訳をした?) 嫗、内侍の許(もと)に かへり出でて「口をしく この幼き者は 強(こは)く侍るものにて 對面すまじき。」と申す。

(内侍はそれを聞いて、帝の命令をどう強調して反論した?) 内侍「『必ず見奉りて參れ。』と 仰事ありつるものを 見奉らでは いかでか歸(かえ)り參らん。

(この国に住む者として、王の命令を聞かないわけにはいかないだろう?) 國王(こくおう)の 仰事(おおせごと)を まさに世に住み給はん人の 承(うけたま)り給(たま)はではありなんや。 いはれぬことなし 給ひそ。」と、詞(ことば)はづかしく(たしなめる言葉で)いひければ、

(それを聞いたかぐや姫は、さらに頑なになって何と言い放った?) これを聞きてましてかぐや姫 きくべくもあらず。 「國王(こくおう)の仰事(おおせごと)を背(そむ)かば はや殺し給ひてよかし。」といふ。


「殺してくれて構わない」とまで言い切るかぐや姫の強さが印象的です。

内侍が「國王の仰事(こくおうのおおせごと)」を盾にして圧力をかけるのに対し、かぐや姫はそれを真っ向から否定します。これは、かぐや姫が「この国の人間ではない(月の住人である)」ことの伏線でもあります。

次は、内侍が手ぶらで帰るわけにもいかず、どう報告するか、そして帝が次にどう動くか(狩りに行くふりをして直接見に行く)へと続きます。

帝(みかど)が、かぐや姫の頑なな態度に興味を持ち、さらに「翁に褒美(冠=位階)」をちらつかせて懐柔しようとする場面です。

権力者の論理(育ての親なら言うことを聞かせられるはずだ)と、翁の板挟みの苦しさがポイントです。


(内侍は戻ってきて、どう報告した?) この内侍 歸(かえ)り參りて このよし(旨)を奏(そう)す。

(帝はそれを聞いて、彼女の性格(多くの男を不幸にしたこと)をどう評した?) 帝 聞(き)こしめして「多くの人を 殺してける心ぞかし。」との給ひて 止みにけれど、

(それでも諦めきれず、女の策略に負けてたまるかと誰を呼んだ?) 猶(なほ)思(おぼ)しおはしまして「この女(をうな)のたばかり(女の計略)にや まけん。」と思(おぼ)しめして竹取の翁を召(め)して仰(おお)せたまふ、

(翁に何を命じた?以前の使いはどうなった?) 「汝が持て侍る かぐや姫を奉れ。 顔 容(かたち)よしと聞(き)こしめして御(おほん)使ひをたびしかど かひなく 見えずなりにけり。

(こんな生意気な態度を許して良いのか?) かく たい〴〵しく(大胆不敵に)やは ならはすべき。」と仰せらる。

(翁は恐縮して、娘が宮仕えをどう思っていると答えた?) 翁 畏(かしこ)まりて 御(おほん)返事(かえりごと)申すやう「この女(め)の童(わらわ)は絶えて宮仕(みやづかえ)つかう奉(たて)まつるべくもあらず侍るを、もてわづらひ侍り。 さりとも罷(まか)りて仰せ給はん。」と奏(そう)す。

(帝は、自分が育てた子なのだからどうだと言った?) 是を聞(き)こし召(め)して仰せ給ふやう、「などか(どうして)翁の手に おほし たて たらんものを、心に任(まか)せざらん。

(もし連れてくれば、翁に褒美として何をくれると言った?) この女(め)もし奉りたるものならば 翁に冠(かうぶり)をなどか賜(たば)せざらん。」


「多くの人を殺してける心ぞかし」という帝のセリフは、5人の貴公子たちが死んだり恥をかいたりしたことを指しており、かぐや姫の「残酷な魔性」を見抜いている鋭い一言です。

この後、翁は家に帰り、褒美の話を出してかぐや姫を説得しようとしますが、そこでかぐや姫から衝撃的な言葉(私は死んでしまう、私はこの国の人ではないなど)が飛び出します。

翁が帝から「冠(出世・名誉)」を約束されて喜び勇んで帰宅するものの、かぐや姫の「死」をちらつかせた強烈な拒絶に遭い、結局は娘の命を優先して帝に断りを入れに行く場面です。

翁の親心と、かぐや姫の決意の固さが対比されています。


(翁は帝の言葉を喜び、かぐや姫にどう伝えた?) 翁 喜びて 家に 歸(かえ)りて かぐや姫に かたらふやう「かくなん 帝の仰せ給へる。 なほ や(あなた)は 仕(つか)う 奉り給はぬ。」といへば、

(かぐや姫はどう答えた?宮仕えをするくらいならどうなる?) かぐや姫 答へて曰く「もはら さやうの宮仕(みやづかへ)つかう奉(たて)まつらじと思ふを 強ひて仕う奉らせ給はゞ 消え失(う)せなん。 御(み)司(つかさ)冠(こうぶり)つかう奉りて 死ぬばかりなり。」

(翁は慌ててどう答えた?出世と娘の命、どちらが大事?) 翁 答(いら)ふるやう、「なしたまひそ。 官(つかさ)冠(こうぶり)も、我子を見奉らでは 何にかはせん。

(それでも、なぜ宮仕えだけで死ぬ必要があるのか?) さはありともなどか宮仕をし給はざらん。 死に給ふやうやはあるべき。」といふ。

(かぐや姫は、嘘だと思うなら試してみろとどう言った?) 「『なほそらごとか。』と、仕う奉らせて 死なずやあると見給へ。

(多くの求婚者を断ったのに、帝に従うのは世間体が悪い?) 數多(あまた)の人の志 疎(おろか)ならざりしを 空しくなしてしこそあれ 昨日(きのふ)今日(けふ)帝のの給はんことにつかん 人ぎきやさし(恥ずかしい)。」といへば、

(翁は娘の命を最優先し、帝にどう断ることにした?) 翁 答へて曰く 「天の下の事は とあり ともかゝりとも 御(おん)命の危(あやう)きこそ 大きなる障(さは)りなれ。猶(なほ)仕う奉るまじきことを 參りて 申さん。」とて、

(再び参内して、帝にどう報告した?) 參りて申すやう、「仰(おほせ)の事のかしこさに かの童(わらわ)を參らせんとて仕う奉れば『宮仕に出(いだ)し たてなば 死ぬべし。』とまをす。

(自分の実の子ではないことをどう説明した?) 造麿(みやつこまろ)が手にうませたる子にてもあらず 昔 山にて見つけたる。

(だから性格も普通の人とは違う?) かゝれば 心ばせも 世の人に似ずぞ侍る。」と奏(そう)せさす。


「人ぎきやさし(人聞きが悪い・恥ずかしい)」というのは、多くの男性の求婚を袖にしておきながら、権力者である帝の命令にはあっさり従うのか、と世間に思われるのが嫌だ、という理屈です。

しかし、本音はやはり「天上の人間だから地上の権力には従わない」というところにあるのでしょう。

翁も最後は「出世より娘の命」を選ぶあたり、やはり優しいおじいさんですね。

次は、帝がそれを聞いて諦めるかと思いきや、狩りに行くふりをして直接見に行こうと画策するシーンへと続きます。

帝(みかど)が、狩りに行くふりをして直接かぐや姫の家へ乗り込み、強引に連れ去ろうとするも、かぐや姫が「影(かげ=光)」になって消えるという、非常に幻想的かつ緊迫したシーンですね。

かぐや姫が人間ではないことがはっきりと描写される重要な場面です。


(帝は、翁の家がどこに近いことを利用してどう計画した?) 帝 おほせ給(たま)はく「造麿(みやつこまろ)が 家は 山本(やまもと)近かンなり。 御(み)狩(かり)の行幸(みゆき)し給はんやうにて見てんや。」とのたまはす。

(翁はその計画をどう思った?) 造麿が申すやう、「いとよきことなり。

(どんな風に突然行けばいいと助言した?) 何か心もなくて侍(はべ)らんに ふと行幸(みゆき)して御覽(ごらん)ぜられなん。」と奏(そう)すれば、

(帝はすぐに日を決めて狩りに出かけ、家に入って誰を見つけた?) 帝 俄(にはか)に日を定めて 御(み)狩(かり)にいで給ひて かぐや姫の家に入り給ひて見給ふに、

(その人の容姿は?光り輝いていた?) 光 滿ちて けうらにて 居たる人あり。

(帝は「これだ!」と思って近づくと、かぐや姫はどうした?) 「これならん。」とおぼして近くよらせ給ふに逃げて入る、

(帝が袖を捕まえると、かぐや姫はどう反応した?) 袖を捕へ給へば おもてを ふたぎて候(さぶら)へど、

(帝は一目見てどう思い、どうしようとした?) 初(はじめ)よく御覽じつれば 類(たぐい)なく おぼえさせ給ひて「許さじとす。」とて 率(ゐ)ておはしまさんとするに、

(かぐや姫はどう答えて拒否した?自分はどこの生まれではない?) かぐや姫 答へて奏(そう)す「おのが身は この國(くに)に生れて侍らばこそ 仕へ給(たま)はめ いと率(ゐ)ておはし難(かた)くや 侍らん。」と 奏す。

(それでも帝が輿(こし)を寄せて無理やり連れて行こうとすると、どうなった?) 帝「などかさあらん。 猶(なほ)率(ゐ)ておはしまさん。」とて、御(み)輿(こし)を 寄せたまふに このかぐや姫 きと影になりぬ。

(影(光)になって消えてしまったのを見て、帝はどう感じた?) 「はかなく、口をし。」とおぼして「げにたゞ人には あらざりけり。」と おぼして、

(諦めて何と言った?姿を元に戻せばどうする?) 「さらば御供には率(ゐ)ていかじ。 もとの御かたちとなり給ひね。 それを見て だに歸(かえ)りなん。」と仰せらるれば、

(それを聞いて、かぐや姫はどうした?) かぐや姫 もとのかたちになりぬ。


「影(かげ)」という言葉は、古文では「光」や「姿」を指しますが、ここでは「実体が消えて光の玉のような状態になった」と解釈するのが一般的です。

帝が強引に迫った瞬間にスッと消える(透過する)という、まさにSFのような展開。これで帝も「普通の人間ではない」と確信し、連れ去るのを諦めます。

この後、帝はかぐや姫の美しさに改めて心を奪われ、歌を贈って帰ることになります。

そして、物語はいよいよ最終章、月からの使者がやってくる「昇天(帰還)」の準備へと進んでいきます。

帝(みかど)が、かぐや姫を無理に連れ去ることを諦め、歌を贈って別れるシーン。そしてその後も、かぐや姫を忘れられず、文(手紙)を交わし合う関係になる場面です。

物語の流れ(別れ→歌の贈答→帰還後の帝の心変わり)に沿って、記憶のトリガーを作成しました。


(帝はかぐや姫を見て、どう感じた?) 帝 なほ めでたく思(おぼ)し召(め)さるゝこと せきとめがたし。

(翁に対してはどう感謝した?) かく見せつる造麿(みやつこまろ)を悦びたまふ。

(翁は帝の供の者たちにどう振る舞った?) さて 仕(つか)うまつる百官の人々に あるじ いかめしう 仕う奉る。

(かぐや姫を置いて帰ることを、帝はどう思った?) 帝 かぐや姫を留(とど)めて歸(かえ)り給はんことを 飽かず口をしくおぼしけれど、

(それでも、何を残してきたような気持ちで帰った?) たましひを 留めたる心地してなん 歸(かえ)らせ給ひける。

(輿(こし)に乗った後、かぐや姫に送った歌は?「帰るのが辛い。あなたを残していくから」) 御輿(みこ)に奉りて後に かぐや姫に、

かへるさの みゆき物憂(う)く おもほえて そむきてとまる かぐや姫ゆゑ

(かぐや姫の返歌は?「粗末な家で暮らしてきた私が、どうして玉の台(宮殿)など見たいと思うでしょうか」) 御返事を、

葎(むぐら)はふ 下(した)にも年(とし)は 經(へ)ぬる身の 何(なに)かは玉(たま)の うてなをも見(み)む

(これを見て帝はどう感じた?ますます帰る気が…) これを 帝 御覽じて いとゞ(いっそう)歸(かえ)り給はん そらもなく おぼさる。

(心は残るが、夜を明かすわけにはいかないのでどうした?) 御(み)心は更に立ち歸(かえ)るべくも おぼされざりけれど さりとて夜を明し給ふべきにもあらねば 歸(かえ)らせ給ひぬ。

(宮廷に戻り、仕える他の女性たちを見てどう思った?) 常に仕う奉る人を見給ふに かぐや姫の 傍(かたは)らに寄るべくだにあらざりけり。

(今まで美しいと思っていた女性と比べてどうだった?) 「こと人よりは けうらなり。」と おぼしける人の かれに思し合(あ)はすれば 人にもあらず。

(結局、帝はどう過ごすようになった?) かぐや姫のみ 御心に かゝりて たゞ一人過したまふ。 よしなくて 御方々にもわたり給はず、

(かぐや姫とはどのような関係が続いた?) かぐや姫の 御(おん)許(もと)にぞ 御文を書きて通(かよ)はさせ給ふ。

(かぐや姫の返事の態度は?) 御(おほん)返事(かえりごと)さすがに 憎からず 聞(きこ)え交(かは)し給ひて、

(季節の風物につけても、どうしていた?) おもしろき 木(き)草(くさ)につけても、御歌を詠みてつかはす。


第9章:月への帰還の告白〜翁の悲しみと十五夜の近づき〜

帝の「たましひを留めたる心地(魂を置いてきたようだ)」という表現が、かぐや姫への深い執着を表しています。

また、かぐや姫も他の求婚者には冷たかったのに、帝に対しては「さすがに憎からず(まんざらでもない)」という態度で文通を続けているのが面白いですね。

この「プラトニックな文通関係」が、物語の最後まで重要な意味を持ちます。

さて、いよいよ物語は終盤。かぐや姫が月を見て泣くようになり、帰還の日が近づいてくるシーンへと続きます。

帝(みかど)との文通で心を慰め合ってから3年が経ち、物語が急展開を迎える場面です。

かぐや姫が月を見て物思いに沈み、周囲が心配する様子を描いています。月を見ることを「忌む(不吉だ)」とする当時の風習との対比もポイントです。


(帝と文を交わして心を慰め合っていたが、どれくらい経った?) かやうにて 御心を互に 慰め給ふほどに 三年(みとせ)ばかりありて、

(春の頃から、月を見てかぐや姫はどういう様子になった?) 春の初(はじめ)より かぐや姫 月のおもしろう出(い)でたるを見て 常よりも 物思ひたるさまなり。

(ある人が月を見ることをどう注意した?) ある人の「月の顔 見るは忌むこと。」ゝ制しけれども、

(それでも人の見ていない隙にどうしていた?) ともすれば 人(ひと)間(ま)(人のいないとき)には 月を見ていみじく泣き給ふ。

(7月15日の満月の頃、様子はどうだった?) 七月(ふみづき)の もちの月に いで居て 切に物思へるけしきなり。

(近くに仕える人々は、翁にどう報告した?) 近く使(つか)はるゝ人々 竹取の翁に告げていはく、

(以前から月を見ていたが、最近はどうだと言った?) 「かぐや姫 例(れい)も 月をあはれがり給ひけれども この頃となりては たゞ事にも侍らざンめり。

(ただ事ではないので、どうしてくれと頼んだ?) いみじく思(おぼ)し歎(なげ)くことあるべし。 よく〳〵見奉(たてまつ)らせ給へ。」といふを聞きて、

(翁はかぐや姫に何と尋ねた?「こんなに楽しい世の中なのに…」) かぐや姫にいふやう「なでふ心ちすれば かく物を 思ひたるさまにて 月を 見給ふぞ。 うましき(心が満たされている)世に。」といふ。

(かぐや姫はどう答えた?「月を見ると…」) かぐや姫「月を見れば 世の中こゝろぼそくあはれに侍り。 なでふ物をか歎(なげ)き侍るべき。」といふ。

(その後、部屋を覗いてみるとやはりどうだった?) かぐや姫のある所に至りて見れば なほ物思(おも)へる けしきなり。

(翁は心配して「私の仏(大切な子)」にどう問いかけた?) これを見て「あが佛(ほとけ)何事を思ひ給ふぞ。 思(おぼ)すらんこと何事ぞ。」といへば、

(かぐや姫は理由を言ったか?) 「思ふこともなし。物なん心細く覺(おぼ)ゆる。」といへば、

(翁は何を見るなとアドバイスした?) 翁「月 な見給ひそ。 これを見給へば 物思(おぼ)す けしきは あるぞ。」といへば、

(かぐや姫はそれに従った?) 「いかでか 月を見ずにはあらん。」とて なほ月 出づれば いで居つゝ 歎き思へり。

(月の出ない夕闇の時はどういう様子?) 夕暗(ゆふやみ)には 物思はぬ氣色なり。

(月が出る時間になるとどうなる?) 月の程に なりぬれば 猶(なほ)時々は うち歎(なげ)き 泣きなどす。

(召使い達はそれを見てどう噂した?親たちは気づいていた?) 是をつかふものども「猶(なほ)物思(おぼ)すことあるべし。」とさゝやけど 親を始めて何事とも知らず。


「あが佛(私の仏様=大切な子供)」という翁の呼びかけが、親愛の情の深さを表していて切ないですね。

しかし、かぐや姫は本当のこと(自分が月から来たこと、帰らなければならないこと)をまだ言い出せずにいます。

次は、いよいよ8月15日(中秋の名月)が近づき、かぐや姫が泣きながら真実を告白する重要なシーンへと続きます。

いよいよ物語の核心、かぐや姫が自らの正体(月の都の人)を明かし、育ての親に別れを告げる、涙なしには読めないシーンです。

これまで必死に隠してきたけれど、もう隠し通せなくなった彼女の悲痛な叫びと、翁の錯乱ぶりが描かれています。


(いつのこと?月を見てどうしていた?) 八月(はづき)十五日(もち)ばかりの月に出(い)で居て かぐや姫 いといたく 泣き給ふ。

(以前は隠れて泣いていたが、今はどう?) 人めも 今は つゝみ給はず泣き給ふ。

(それを見た親たちはどうした?) これを見て 親どもゝ「何事ぞ。」と問ひ 騒ぐ。

(かぐや姫は泣きながら、なぜ今まで黙っていたと言った?) かぐや姫 なく〳〵言ふ「さき〳〵(以前)も 申さんと 思ひしかども『かならず 心 惑はし給はんものぞ。』と思ひて 今まで過(すご)し 侍りつるなり。

(ついに口に出した真実は?自分はどこの国の人間?) 『さのみやは。』とて うち出で侍りぬるぞ。 おのが身は この國(くに)の人にもあらず 月の都の人なり。

(なぜこの世界に来たのか?) それを昔の契(ちぎり)なりけるによりてなん この世界には まうで來(き)たりける。

(今はどうしなければならない時?) 今は歸(かえ)るべきになりにければ、

(いつ、誰が迎えに来る?) この月の十五日(もち)に、かのもとの國より 迎(むかえ)に 人々まうで来(こ)んず。

(逃れられない運命で、親が嘆くのが悲しいから、いつから悩んでいた?) さらず(どうしても)まかりぬべければ 思(おぼ)し歎かんが 悲しきことを この春より思ひ歎き侍るなり。」といひて、いみじく 泣く。

(それを聞いた翁は、何と言って反論した?) 翁「こは(これは)なでふことをの給ふぞ。

(竹の中から見つけた時、どのくらいの大きさだった?) 竹の中より見つけ聞(きこ)えたりしかど 菜種(なたね)の大(おほ)きさおはせしを

(自分の背丈ほどになるまで育てた子を、誰が迎えに来るというのか?) 我 丈(たけ)たち並ぶまで 養ひ 奉りたる我子を 何人(なにびと)か迎へ聞(きこ)えん。 まさに許さんや。」 といひて、

(翁は興奮して何と叫んだ?) 「我こそ死なめ。」とて 泣きのゝしること いと堪(た)へがたげなり。

(かぐや姫は、月の都にも誰がいると言った?) かぐや姫の いはく「月の都の人にて 父母(ちゝはゝ)あり。

(本来はどれくらいの期間のつもりで来た?) 片時の間(ま)とて かの國(くに)より まうでこしかども、

(しかし長く住みすぎて、向こうの親のことはどうなった?) かくこの國(くに)には 數多(あまた)の年を經(へ)ぬるになんありける。 かの國(くに)の父母(ちちはは)の事も おぼえず。

(あちらへ帰ることは嬉しいか?) こゝには かく久しく遊(あそ)び 聞(きこ)えてならひ 奉(たてまつ)れり。 いみじからん 心地もせず、悲しくのみなんある。

(自分の意志で帰るのか?)されど己(おの)が 心ならず 罷(まか)りなんとする。」といひて 諸共(もろとも)に いみじう泣く。

(召使い達も、かぐや姫の気立ての良さを愛していたのでどうなった?) つかはるゝ人々も 年頃ならひて立ち別れなんことを 心ばへなど あてやかに 美しかりつることを見ならひて 戀(こい)しからんことの 堪へがたく 湯水も 飮まれず 同じ心に歎(なげか)し がりけり。


「菜種(なたね)の大きさ」という表現は、かぐや姫が最初いかに小さく儚い存在だったかを強調する有名なフレーズです。

また、「昔の契(ちぎり)」が何なのか(罪を犯して地球に流刑された説など)は物語中では具体的に語られませんが、かぐや姫自身は「帰りたくない(地球の親の方が大切だ)」とはっきり意思表示している点が、この別れの悲しさを倍増させています。

次は、この話を聞きつけた帝が、かぐや姫を守るために軍勢を派遣する展開へと続きます。

帝(みかど)がかぐや姫の噂を聞きつけ、使いを送る場面ですね。

ここで注目すべきは、**竹取の翁が「まだ50歳くらい」**であるという記述です。現代の感覚や絵本のおじいさんのイメージとは違い、意外と若いことに驚かされますが、それほどまでに心労で急激に老け込んでしまったという表現です。


第10章:天人の飛来と涙の別れ〜天の羽衣と残された手紙〜

(帝はこの話を聞いて、どうした?) この事を 帝 聞(きこ)しめして 竹取が家に 御使ひ つかはさせ給ふ。

(使いに対して、翁はどういう状態で会った?) 御使ひに 竹取 いで逢ひて泣くこと限りなし。

(嘆きのあまり、翁の容姿はどう変わってしまった?) この事を 歎くに 髪も白く 腰も 屈(かゞま)り 目も たゞれにけり。

(翁は本当は何歳くらいだった?) 翁 今年は 五十(いくそ)許(ばかり)なりけれども、

(それなのにどう見えた?) 「物思ふには片時(かたとき)になん 老(お)いになりにける。」と見ゆ。

(使いは翁の様子を見て、何と尋ねた?) 御使ひ 仰事とて 翁に いはく「いと心苦しく 物思ふなるは誠にか。」と仰せ給ふ。

(翁は泣きながら、いつ誰が迎えに来ると言った?) 竹取 泣く〳〵申す「このもち(十五日)になん 月の都より かぐや姫の迎(むかへ)にまうで来(く)なる。

(翁は帝に何を頼んだ?)尊(たふと)く問はせ給ふ。 このもちには 人々 たまはりて 月の都の人 まうで來(こ)ば 捕へさせん。」と申す。

(使いの報告を聞いて、帝はどう同情した?) 御使ひ かへり參りて 翁のありさま申して 奏(そう)しつる事ども申すを 聞(きこ)し召(め)して の給ふ、

(一目見ただけの自分でさえ忘れられないのに、翁はどうだろうか?) 「一目(ひとめ)見給ひし 御心にだに忘れ給はぬに 明暮(あけくれ)見馴れたるかぐや姫をやりては いかゞ思ふべき。」


翁が「月からの使者を捕まえてくれ」と帝に頼むあたり、必死さが伝わります(相手は天上の存在なので、武力でどうにかなる相手ではないのですが…)。

また、帝が「私でさえ忘れられないのだから、育ての親の悲しみはいかばかりか」と深く同情する姿は、帝の人柄の良さを表しています。

次は、帝がその願いを聞き入れ、大規模な軍勢(二千人!)を派遣して屋敷を警護させるシーンへと続きます。

帝(みかど)が派遣した2000人の軍勢に守られ、おじいさん(翁)が強気になっているシーンです。

「これだけ守れば天の住人にも負けないだろう」という翁の自信と、それをあっさり打ち砕かれる結末への「前フリ」が効いている場面です。


(帝はいつ、誰を指揮官として派遣した?) かの十五日(もちのひ)司々に 仰せて 勅使(ちょくし)には 少將高野(たかの)大國(おおくに)といふ人をさして、

(どの部署から、合計何人の軍勢を送った?) 六衞(ろくゑ)のつかさ 合せて 二千人の人を 竹取が家に つかはす。

(2000人の配置は?塀の上と屋根の上に何人ずつ?) 家に罷(まか)りて 築地(ついじ)の上に千人 屋(や)の上に千人、

(家の召使いも含めて、警備の密度はどうだった?) 家の人々 いと多かりけるに 合はせて あける隙(ひま)もなく 守らす。

(守る人々の装備は?) この守る人々も 弓矢を帶(お)して 居り。

(母屋の中は誰が守った?) 母屋(もや)の内には 女どもを 番(ばん)にすゑて 守らす。

(かぐや姫と嫗(おばあさん)はどこに隠れた?) 嫗(おうな)塗籠(ぬりごめ)の内にかぐや姫を抱きて居り。

(翁はどこで守っていた?) 翁も 塗籠(ぬりごめ)の戸を 鎖(さ)して 戸口(とぐち)に 居り。

(翁は、これだけの警備を見て何と言った?) 翁の いはく「かばかり 守る所に 天(あめ)の人にも まけんや。」といひて、

(屋根の上の兵士たちに、何を見つけたらどうせよと命じた?) 屋の上に居(を)る人々に曰く 「つゆも 物(もの)空に 翔(かけ)らば ふと射殺し給へ。」

(兵士たちはどう頼もしく答えた?たとえコウモリでもどうする?) 守る人々の いはく「かばかりして守る所に蝙蝠(かはほり)一つだにあらば まづ射殺して 外にさらさんと 思ひ侍る。」といふ。

(それを聞いて翁はどう感じた?) 翁 これを聞(き)きて たのもしがり居り。


「塗籠(ぬりごめ)」は、壁を厚く塗って作った納戸のような部屋で、当時の家屋の中で最も頑丈な場所です。現代で言うシェルターのような役割です。

「蝙蝠(こうもり)一匹でも射殺してやる」という兵士たちの言葉は非常に頼もしいですが、相手は「光」と共にやってくる天上の存在です。物理的な武力が通じるのか、読者としてはハラハラする場面です。

次は、そんな自信満々な翁に対して、かぐや姫が「無駄ですよ」と冷静に(そして悲しく)諭すシーンへと続きます。

翁の必死さと、かぐや姫の諦めと悲しみが対照的です。


(かぐや姫は、家の防備を見て何と言った?月の都の人とは戦えるか?) これを 聞きて かぐや姫は 「鎖(さ)し籠(こ)めて 守り 戰ふべき したくみを したりとも あの國(くに)の人を え戰はぬなり。 弓矢して 射られじ。

(戸を閉ざしていてもどうなる?勇気ある武士たちもどうなってしまう?) かく鎖(さ)しこめて ありとも かの國(くに)の人こば 皆 開(あ)きなんとす。 相戰はんとすとも かの國(くに)の人 來(き)なば 猛(たけ)き心 つかふ人 よもあらじ。」

(それを聞いて翁は激怒し、月からの使者をどうしてやると言った?) 翁のいふやう、「御(おん)迎へにこん人をば 長き爪して 眼(まなこ)をつかみ つぶさん。 さが髪を とりて かなぐり 落さん。

(さらに、役人たちの前でどう恥をかかせてやると言った?) さが尻をかき出でて、こゝらの おほやけ人(びと)に 見せて 恥 見せん。」と 腹だちをり。

(かぐや姫はそれを聞いて、なぜ大声を出さないでと頼んだ?) かぐや姫いはく「聲高(こわだか)に なの給ひそ。 屋の上に 居る人どもの 聞くに いとまさなし(みっともない)。

(かぐや姫にとって、何が一番の心残りなのか?) いますかりつる志(親の恩愛)どもを 思ひも知らで罷(まか)りなんずることの 口をしう侍りけり。

(もう少し待ってほしいと頼んだが、どうだった?) 『長き契(ちぎり)のなかりければ 程なく罷(まか)りぬべきなンめり。』と思ふが悲しく侍るなり。 親たちの顧(かへり)み(お世話)を いさゝかだに仕う奉らで 罷(まか)らん道も 安くもあるまじきに 日頃も出(い)で居て 今年ばかりの暇(いとま)を 申しつれど 更に 許されぬによりてなん かく思ひ 歎き侍る。

(親の心を乱して去ることが辛いと言って泣いた?) 御心(みこころ)をのみ 惑はして 去りなんことの 悲しく堪へがたく 侍るなり。

(月の都はどのような場所か?老いや悩みはあるか?) かの都の人は いとけうらにて 老いもせずなん。 思ふこともなく 侍るなり。

(そんな素晴らしい所へ行くのは嬉しいか?何を見るのが恋しいと言った?) さる所へ まからんずるも いみじくも 侍らず。 老い 衰へ 給(たま)へるさまを 見奉(たてまつ)らざらんこそ 戀(こい)しからめ。」といひて 泣く。

(翁はそれを聞いて、自分たちが守るから大丈夫だとどう励ました?) 翁「胸痛きこと なしたまひそ。 麗(うるわ)しき姿したる使ひにも さはらじ。」とねたみをり。


翁の「尻をかき出して恥をかかせてやる」という発言はかなり強烈で、なりふり構わぬ必死さが伝わってきます。

一方でかぐや姫は、「悩みもなく老いもしない」月の都よりも、「老い衰えていく」地球の親と共にいたいと願っています。不老不死よりも、限りある命の愛おしさを選ぶ、物語の核心部分です。

次は、いよいよ「月からの迎え」が到着するシーンです。

当時の人々にとっての「未知との遭遇」のような、圧倒的な光と不可解な力の描写が素晴らしい部分です。

翁が自信満々に配置した2000人の兵士たちが、全く役に立たなくなる様子が描かれています。


(時刻はいつ頃?) かゝる程に 宵うちすぎて 子の時(ねのとき=深夜0時頃)ばかりに、

(家の周りの明るさはどうなった?) 家のあたり 晝(ひる)のあかさにも 過ぎて 光りたり。

(その明るさは満月何個分?) 望月(もちづき)のあかさを 十(と)合せたるばかりにて、

(どれくらい細部まで見えた?) ある人の 毛の穴さへ 見ゆるほどなり。

(空から何に乗って降りてきた?) 大空(おほぞら)より 人 雲に乘りて おりきて、

(地面からどれくらいの高さに並んだ?) 地(つち)より 五尺(ごしゃく=約1.5m)ばかり あがりたる程に 立ち 連(つら)ねたり。

(それを見た人々の戦意はどうなった?) これを見て 内外(うちと)なる 人の心ども物におそはるゝやう(何かに取り憑かれたよう)にて、 相戰はん心も なかりけり。

(弓矢を取ろうとしても、体はどうなった?) 辛(から)うじて 思ひ起して 弓矢を取りたてんとすれども 手に力もなくなりて 痿(な)え 屈(かゞ)まりたる中(うち)に

(気丈な者が無理やり射ようとしたが、矢はどうなった?) 心さかしき者 ねんじて 射んとすれども 外(と)ざまへ いきければ(見当違いの方向へ飛んでいったので)、

(結局、彼らはどういう状態でただ見守った?) あれも戰(たたか)はで 心地 たゞ 痴(し)れに痴(し)れて(正体もなく呆然として)守りあへり。


「五尺ばかりあがりたる程(地面から1.5メートルほど浮いている)」という描写が、非常にリアルで不気味です。完全に着地するのではなく、少し浮いている状態で並んでいるわけですね。

また、兵士たちが「金縛り」にあったように無力化される描写は、かぐや姫が言っていた通り「弓矢して射られじ(戦えない)」という予言が的中した形になります。

次は、その雲の上に乗っている王(リーダー格)が、翁を呼び出し、かぐや姫の「罪」と「許し」について語るシーンへと続きます。

ここでは、かぐや姫がなぜ地球に来たのかという「物語の核心(罪と罰)」が明かされます。また、翁が必死に抵抗しようと嘘をつく場面も切ないです。


(月の人々の装束は?) 立てる人どもは、裝束(さうぞく)の清らなること物にも似ず。

(何を用意していた?) 飛ぶ車一つ 具(ぐ)したり。 羅蓋(らがい=薄絹の傘)さしたり。

(その中の王と思われる人が翁を呼ぶと、翁はどうなった?) その中に王とおぼしき人「家に造麿(みやつこまろ)まうで来(こ)。」といふに 猛(たけ)く 思ひつる 造麿も 物に醉ひたる心ちして うつぶしに 伏せり。

(王は、翁がなぜかぐや姫を授かったと言った?) いはく「汝(なんぢ)をさなき人 聊(いささか)なる功徳を 翁 つくりけるによりて 汝が助けにとて 片時の程とて 降(おろ)しゝを、

(そのおかげで翁はどうなった?) そこらの年頃 そこらの金(こがね)賜ひて 身をかへたるが如く なりにたり。

(かぐや姫が地上に来た本当の理由は?) かぐや姫は 罪をつくり給へりければ かく賤(いや)しき おのれが許(もと)に しばし おはしつるなり。

(なぜ今迎えに来たのか?) 罪のかぎり はてぬれば かく迎ふるを 翁は 泣き 歎く あたはぬことなり。 はや返し奉れ。」といふ。

(翁は反論して、何年育てたと言った?) 翁 答へて申す「かぐや姫を 養ひ奉ること 二十年あまりになりぬ。 片時(ほんの少しの間)と の給ふに 怪しくなり侍りぬ。

(翁は、人違いではないかとどう嘘をついた?) また他處(ことどころ)に かぐや姫と申す人ぞ おはしますらん。」といふ。

(さらに、病気だと言って隠そうとした?) 「こゝにおはする かぐや姫は 重き病をし給へば え出(い)でおはしますまじ。」と申せば、

(王は返事をせず、飛ぶ車を寄せてかぐや姫に何と呼びかけた?) その返事(かえりこと)はなくて屋の上に飛ぶ車をよせて「いざ かぐや姫 穢(きたな)き所に いかでか久しくおはせん。」 といふ。

(すると、厳重に閉ざしていた戸はどうなった?) 立て籠(こ)めたる所の戸(と)即(すなは)ち たゞ あきにあきぬ。 格子(こうし)どもゝ 人はなくして 開きぬ。

(嫗(おばあさん)はどうなった?) 嫗(おうな)抱きて居たるかぐや姫 外(と)にいでぬ。 え止(とど)むまじければ たゞさし 仰ぎて 泣きをり。


ここで重要なのは、月の王にとって地球での20年は「片時(ほんの少しの時間)」であり、地球は「賤しき(卑しい)」「穢き(汚い)」場所だと断じている点です。

この圧倒的な価値観の違いと、魔法のような力(戸が勝手に開く)の前では、翁の嘘も抵抗も全く意味を成さない無常さが描かれています。

次は、かぐや姫が翁たちに最後の別れを告げ、形見(手紙と着物)を渡すシーンへと続きます。

竹取の翁との、涙の別れのシーンです。

翁が「自分を捨てていくのか、連れて行ってくれ」と懇願し、泣き崩れる様子が痛ましいです。かぐや姫もまた、育ててくれた恩を返せずに去る無念さを手紙に綴ります。

記憶のトリガーを作成しました。


(竹取の翁が泣き伏しているところに近寄り、かぐや姫はどう声をかけた?) 竹取 心 惑ひて 泣き伏せる所に寄りて かぐや姫いふ 「こゝに(私)も 心にもあらで かくまかるに 昇らんをだに 見送り給へ。」といへども、

(翁は、なぜ見送る気になれないと言った?自分をどうするつもりだ?) 「何しに 悲しきに 見送り 奉らん。 我をば いかにせよとて 棄てゝは 昇り給ふぞ。 具(ぐ)して 率(ゐ)ておはせね(一緒に連れて行ってくれ)。」と、

(そう言って泣き崩れる翁を見て、かぐや姫もどうなった?) 泣きて 伏せれば、御心惑ひぬ。

(恋しくなった時に見てほしいと、何を書き始めた?) 「文を書きおきてまからん。 戀(こい)しからんをり〳〵 とり出(い)でて 見給へ。」とて、

(手紙の内容:もしこの国に生まれた人間なら、いつまでお世話したかった?) うち泣きて 書くことばは 「この國(くに)に生れぬるとならば 歎(なげ)かせ 奉(たてまつ)らぬ程まで 侍るべきを、

(そうできずに別れることが、どうだと言っている?) 侍らで 過ぎ別れぬること 返す〴〵 本意(ほい)なくこそ 覺(おぼ)え侍れ。

(何を形見として見てほしい?) 脱ぎおく衣(きぬ)を かたみと見給へ。

(いつ、私の方を見てほしい?) 月の出(い)でたらん夜は 見おこせ給へ。

(あなたを見捨てて昇っていく空から、どうなりそうな心地がする?) 見すて奉りてまかる空よりも おちぬべき心地(ここち)す。」 と、かきおく。


「空よりもおちぬべき心地す(空から落ちてしまいそうな気がします)」という表現が、かぐや姫の深い悲しみを表しています。天へ昇る身体とは裏腹に、心は地上(翁たちのもと)に引かれていることがわかります。

この後、かぐや姫は「天の羽衣」を着せられ、人間としての心を失ってしまいますが、その直前に帝へも手紙と「不死の薬」を残します。

ついにクライマックス、かぐや姫が地球を去るシーンです。

ここで重要なのは「天の羽衣(あまのはごろも)」の役割です。これを着ると「空を飛べる」だけでなく、「人の心(感情や悩み)がなくなる」という点が物語の悲劇性を高めています。


(天人たちが持っていた箱には何が入っていた?) 天人(あまびと)の中に もたせたる箱あり。 天(あま)の羽衣(はごろも)入れり。 又あるは 不死の藥(くすり)入れり。

(天人は、なぜ薬を飲めと言った?地上の食べ物はどうだと言った?) ひとりの天人(あまびと)いふ 「壺なる御(み)藥たてまつれ。 きたなき所のもの 食(きこ)しめしたれば 御(おほん)心地 悪(あ)しからんものぞ。」とて、

(かぐや姫は少し舐めた後、残りをどうしようとした?それは許された?) 持てよりたれば 聊(いささか)甞(な)め給ひて 少し形見とて 脱ぎおく衣に 包まんとすれば、ある天人(あまびと)つゝませず、

(天人が羽衣を着せようとした時、かぐや姫はなぜ「待って」と言った?) 御衣(みぞ)をとり出でて着(き)せんとす。 その時に かぐや姫「しばし待て。」といひて 「衣(きぬ)着(き)つる人は 心 異(こと)になるなり(心が別のものに変わってしまう)。 物(もの)一言(ひとこと)いひおくべき事あり。」といひて 文かく。

(天人に「遅い」と急かされて、どう言い返した?) 天人(あまびと)「おそし。」と 心もとながり(イライラする)給ふ。 かぐや姫 「物知らぬこと なの給ひそ。」とて、

(誰宛の手紙を、どんな様子で書いた?) いみじく(まことに)靜かに おほやけ(帝)に御(み)文 奉り給ふ。 あわてぬさまなり。

(手紙の内容:多くの兵を出してくれたのに、どうなってしまうのが残念だと言った?)「かく 數多(あまた)の人を賜(たま)ひて 留(とど)めさせ給へど 許さぬ迎(むかへ)まうできて とり率(ゐ)て罷(まか)りぬれば 口をしく 悲しきこと、

(帝の命令を頑なに断ったことを、どう思われるのが心残りだと言った?) 宮仕(みやづかへ)つかう奉(まつ)らずなりぬるも かくわづらはしき身にて 侍れば 心得ず おぼしめし つらめども 心 強く承(うけたまわ)らずなりにしこと なめげなるもの(無礼な者)に思(おぼ)し召(め)し 止(とど)められぬるなん 心にとまり 侍りぬる。」とて、

(最後に詠んだ歌は?「今はもう天の羽衣を着る時ですが、あなたのことをしみじみと思い出しています」) 今はとて 天(あま)のはごろも 着(き)る(折)をりぞ 君をあはれと 思ひ出(い)でぬる

(手紙と薬を誰に渡した?) とて、壺の藥(くすり)そへて 頭中將(とうのちゅうじょう)を 呼び寄せて 奉(たてまつ)らす。

(中将が受け取った瞬間、羽衣を着せられた。すると、翁への感情はどうなった?) 中將に 天人(あまびと)とりて 傳(つた)ふ。 中將 とりつれば ふと天の羽衣 うち着せ奉りつれば 翁を いとほし 悲しと 思(おぼ)しつる事も 失(う)せぬ。

(人間としての心を失ったかぐや姫は、どうやって去っていった?) この衣(きぬ)着(き)つる人は 物思ひもなくなりにければ 車に乘りて 百人許(ばかり)天人(あまびと)具(ぐ)して 昇りぬ。


「衣着つる人は心ことになるなり(羽衣を着た人は心が別物になってしまう)」という言葉通り、着た瞬間に「翁をいとほし悲しと思しつる事も失せぬ(翁を可哀想だとか悲しいと思う気持ちも消えてしまった)」となるのが、SF的でありながら非常に切ない結末です。

さっきまで泣いて別れを惜しんでいたかぐや姫はもうそこにおらず、ただ無感情な「月の都の人」として去っていきました。

物語はここで終わりません。残された帝が、かぐや姫から託された「不死の薬」をどうするか。これが日本一の山、「富士山」の名前の由来となるエピローグへ続きます。

物語の最後、エピローグとなる部分です。

かぐや姫を失った人々の悲しみと、日本一の山「富士山」の名前の由来が語られて幕を閉じます。

残された翁たちの絶望と、帝のロマンチックな決断を意識して、最後のヒントを作成しました。


第11章:不死の薬と富士山の伝説〜エピローグ〜

(残された翁と嫗は、どうやって嘆いた?) その後 翁・嫗 血の涙を 流して 惑(まど)へど かひなし。

(かぐや姫の手紙を読んだが、薬はどうした?) あの書きおきし文を 讀(よ)みて 聞(き)かせけれど 「何せんにか 命も惜しからん。 誰(た)が爲にか 何事も 益(よう)もなし。」とて 藥も くはず、

(結局、二人はどうなった?) やがて おきもあがらず 病みふせり。

(帰還した中将から報告を受けた帝は、どう過ごした?) 展(ひろ)げて 御覽じて いたく哀(あわ)れがらせ 給ひて 物もきこしめさず 御遊(ぎょゆう=音楽の遊び)等(など)もなかりけり。

(帝は大臣たちに、山について何を尋ねた?) 大臣・上達部(かんだちめ)を 召(め)して 「いづれの山か 天に近き。」ととはせ 給ふに、

(ある人はどこの山だと答えた?) 或(ある)人 奏(そう)す 「駿河(するが)の國(くに)にある山なん この都も近く 天も近く 侍る。」と 奏す。

(帝が詠んだ歌「涙に浮かぶような身の私に、不死の薬が何になろうか」) 是をきかせ給ひて、

あふことも 涙にうかぶ わが身には しなぬくすりも 何(なに)にかはせむ

(帝は、誰を使者として山へ送った?) 勅使(ちょくし)には 調岩笠(つきのいはかさ)といふ人を召(め)して 駿河(するが)の國(くに)にあンなる 山の巓(いたゞき)に もて行くべきよし仰(おお)せ給ふ。

(山頂で何をせよと命じた?) 御(おほん)文(ふみ)・不死の藥(くすり)の壺ならべて 火をつけて もやすべきよし 仰せ給ふ。

(その山を「ふしの山(富士山)」と名付けた理由は?) そのよし承(うけたま)りて兵士(つはもの)ども あまた具(ぐ)して山へ登りけるよりなん その山を ふしの山とは名づけゝる。

(その煙は今どうなっていると伝わっている?) その煙 いまだ雲の中へ たち昇るとぞいひ傳(つた)へたる。


最後の解説:富士山の由来

このラストシーンには、「富士山」の語源について複数の意味が込められています。

  1. 不死(ふし)の山:帝が「死なぬ薬(不死の薬)」を燃やした山だから。
  2. 士(つわもの)に富む山:たくさんの「兵士(つはもの)」を連れて登ったから(「富む士」で富士)。
  3. 煙の伝説:当時の富士山は活火山であり、噴煙を上げていました。それが「かぐや姫への想い(燃やした煙)」として、今も天へ昇り続けているという伝説になっています。

これで『竹取物語』の全文の解説と、記憶のトリガー作成が完了しました。

かぐや姫の誕生から、求婚、昇天、そして富士山の伝説まで、長い物語にお付き合いいただきありがとうございました。

竹取物語 了

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