以前のブログで、自らを「プロの睡眠者(Professional Sleeper)」と称し、人生のすべてを睡眠に捧げるブライアン・ジョンソンさんの驚異的なルーティンをご紹介しました。彼がそこまで睡眠を神聖視するのは、睡眠が単なる休息ではなく、脳を最適化するための重要な「アップグレード」の時間であることを知っているからです。私たちは寝ているときに進化するのです。
では、私たち一般人が、彼の哲学を日々の「学び」に活かすにはどうすればいいのでしょうか?その答えが、今回ご紹介する「睡眠学習」の本質にあります。
「寝ている間に音声を聞くだけで……」といった怪しげな『睡眠学習』の手法ではなく、脳科学的に裏付けられた「記憶の整理と定着」の仕組みを解説します。
1. 記憶の3つのステージ:主役は「中期記憶」
記憶を理解する際、「短期」と「長期」の間に「中期記憶」というモデルを置くと、学習の進め方が非常にクリアになります。
- 短期記憶(数秒程度):新しい情報が入るとすぐに上書きされてしまう、とても短い、一時的な記憶です。
- 中期記憶(数十分〜2週間程度):短期記憶よりも長持ちしますが、長期記憶ほどは安定していない状態です。この段階の主役は、脳の「海馬(かいば)」という器官です。
- 長期記憶(安定保存):適切に処理され、脳の大脳皮質にしっかり定着して、長期間忘れにくくなった状態です。
学習における最大のポイントは、いかに短期記憶を中期記憶(海馬)へ転送するかにあります。
2. 睡眠を味方につける3ステップ
睡眠学習を成功させるための具体的なステップは以下の通りです。
1.インプット(覚えたい情報を取り入れる)
まずは意識的に学習し、情報を脳に取り入れます 。
2.上書き(全く別の作業や情報で短期記憶を上書きする)
学んだ直後に、あえて全く別の作業や勉強を挟みます。短期記憶は新しい情報が来ると上書きされてしまう性質があるため、あえて別の作業を行ないます。
3.転送確認(ターゲット情報を覚えていればOK)
別の作業をした後でも、学んだを覚えていれば、それは情報が「中期記憶」に転送された証拠です。
この状態で眠りにつくことが、睡眠学習の効果を最大化する鍵となります 。ですから、寝る前の復習が大事になります。その時、思い出せなくても大丈夫です。覚え直せば良いだけです。そして、起きてから、睡眠中に忘れていないかを確認することで、ターゲットの情報が確実に中期記憶へ転送したかどうかが確認できます。
3. 睡眠中に行われる「整理」と「転送」のメカニズム
私たちが眠っている間、ノンレム睡眠(N1〜N3)の各段階で、脳はオートマチックに情報の処理を行っています。ありがたいですね。
- N1(準備段階):入眠直後のごく浅いノンレム睡眠です。脳が本格的なメンテナンスに入るための入り口です。
- N2(情報の整理):取り入れた情報を整理整頓し、新しい情報が置けるように脳の「作業机」を片付ける段階です。
- N3(深い眠り):整理された情報を大脳皮質へ転送し、長期記憶として定着させる最も深い眠りの段階です。
眠る直前にサッと振り返ることで、脳はN2の段階でよりスムーズに情報を整理し、N3で長期記憶化を効率的に進めてくれるようになるでしょう。
結びに:睡眠を「無視」するのではなく「投資」に変える
ブライアン・ジョンソンさんのような極限の最適化は難しくても、「海馬に預けた情報を、眠りというシステムを使って長期記憶として保存する」という意識を持つことは誰にでもできます。
「今日はこれを脳に整理してもらおう」と決めて眠るのも面白いと思います。意識が変わり、行動が変わることで、睡眠は、あなたの学びを一生モノの資産に変えてくれると思います。
P.S. 睡眠を意識的に使う有名人:市川團十郎さん
記憶を定着させるために、睡眠を戦略的に使っているのが、歌舞伎役者の市川團十郎さんです。彼は、膨大なセリフを覚える際、まさにこの仕組みを直感的に活用されています。
團十郎さんは動画の中で、「セリフを覚えたら寝る」というスタイルを語っています。これはまさに、脳の情報整理(空き容量の確保)や記憶定着を狙った『睡眠学習』と言えるでしょう。
▼ 市川團十郎さんの「セリフの覚え方」はこちら 【今すぐ実践できる】市川團十郎のセリフの覚え方


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